2025年8月7日、ホテル椿山荘東京で「第16回雄町サミット」が開催され、全国から集まった雄町米を原料とする自慢の酒が一堂に会しました。今年も、吟醸酒部門から純米酒部門、そして新設の燗酒部門まで、多彩な銘柄が競い合い、各部門の最優等賞が決定しました。結果は次の通りです。
- 吟醸酒部門:㈾杉勇蕨岡酒造場(山形)「純米吟醸 嵐童 雄町」
- 純米酒部門(精米歩合60%以下の部):相原酒造(広島)「元平 MOTOHIRA yellow」
- 純米酒部門(精米歩合60%超の部):利守酒造(岡山)「酒一筋 番外」
- 燗酒部門(今年新設):三冠酒造(岡山)「三冠 和井田 雄町 生酛純米」
なかでも注目したいのは、純米酒部門(精米歩合60%超の部)で最優等賞に輝いた利守酒造です。同蔵は1965年頃、ほぼ姿を消していた雄町米の復活に挑み、4代目蔵元の手で見事に蘇らせたことで知られています。雄町は背丈が高く倒れやすいため栽培が難しく、一時は農家からも敬遠されていました。しかし、その酒質の高さに魅了された利守酒造は、種籾の確保から栽培農家の協力体制づくりまで、地道な取り組みを重ね、ついに幻と呼ばれた米を復活させたのです。
利守酒造は今も雄町への情熱を失っていません。今年7月30日には、「幻の米 雄町酒米物語ファンド」の募集を開始しました。これは雄町米の安定生産と後継者育成を目的とし、支援者と共にこの貴重な酒米を未来へつなぐ取り組みです。雄町米の発祥地であり復活の地でもある岡山から、全国にその魅力を発信し続けています。
雄町米の歴史と特性
雄町米は1859年、岡山は雄町の農家が発見した日本最古の純系酒米品種とされています。現代の人気酒米「山田錦」や「五百万石」のルーツにあたる存在で、芳醇な香りと奥行きのある旨味を引き出す特性を持っています。粒が大きく心白が発達しており、吸水性や蒸し上がりの均一さが醸造家に愛される理由です。その一方で、栽培には高度な技術と手間が必要で、長らく希少な酒米として扱われてきました。
今回のサミットに集まった蔵元の多くは、雄町ならではのふくよかな旨味と滑らかな口当たりを生かすため、精米歩合や酵母選びに工夫を凝らしています。特に燗酒部門での評価は、雄町米の温度変化に強い味わいの深さを証明したといえます。
酒米がブランドをつくる時代
近年、日本酒ファンの間では「どんな酒米を使っているか」が銘柄選びの大きなポイントになっています。かつては精米歩合やアルコール度数が注目されていましたが、今では酒米の品種そのものがブランド価値を持ち、ラベルに大きく記載されることも珍しくありません。
これは、ワイン業界でいう「テロワール」の概念が日本酒にも浸透してきた証拠です。産地の気候や土壌条件が酒米の味に反映され、それが最終的に酒の個性を形づくります。雄町米はまさにその典型例で、岡山県産雄町と他県産雄町では風味の表情が変わることも多いのです。消費者は「この蔵の雄町だから飲みたい」という動機で選び、蔵元はそれを差別化の武器として活用します。
今後、日本酒業界では優れた酒米の確保がますます重要になるでしょう。農業者と蔵元の連携、そして消費者への情報発信が、酒米ブランドの価値を高める鍵となります。雄町米のように歴史と物語を持つ酒米は、単なる原料以上の存在として、地域文化や産業振興にも貢献し続けるはずです。
「酒一筋 番外」作り手より一言(利守酒造ホームページより)
「酒一筋 番外」—— 雄町を未来へつなぐ酒
私たちは、失われかけていた酒米「雄町」を復活させ、その聖地とも言える軽部の地で自社栽培を行っています。
丹精込めて育てた雄町米の中には、特等や1等といった高品質なものもありますが、一方で等級基準に満たない「等外米」も必ず生まれます。
しかし、その「等外米」もまた、雄町の恵みの一部。私たちはこの米を無駄にせず、米だけで仕込みました。そうして生まれたのが「酒一筋 番外」です。
この酒を醸すことで、翌年も田んぼを耕し、雄町を育て続けることができます。まさに、「番外」は私たちの米作りの営みを支える一杯。雄町の歴史と未来をつなぐ酒として、ぜひ味わっていただきたい一本です。
▶ 「酒一筋 番外」販売サイト 岡山県の利守酒造による地酒専門店「赤磐雄町」
