志摩観光ホテル2026年オリジナル日本酒「志摩」を発売~三重の酒造との協働で生み出す新たな地域価値

2016年の伊勢志摩サミットで各国首脳の食卓に日本酒が供されたことは、世界に向けて三重の食文化と日本酒の奥深さを印象づける大きな契機となりました。その会場となった志摩観光ホテルでは、サミット以降、三重県内の酒蔵と連携してオリジナル日本酒を毎年企画しており、今年も12月15日より2026年版のホテルオリジナル日本酒「志摩」が数量限定で販売されます。

このシリーズの最大の特徴は、単なる『ラベル企画』にとどまらず、三重の「水・酒米・技・風土」を軸に据えた、より深い共同開発の姿勢にあります。原料選定の段階からホテルと酒蔵が議論し、食とのマリアージュを前提とした味わい設計を行うことで、ホテル独自のペアリング哲学を反映した酒へと仕上げています。

協働の深化がもたらす地域ブランドの強化

このような取り組みは、地域の素材を単に使うだけでは生まれない価値を可視化し、結果として三重全体の日本酒ブランド力を底上げする効果が期待されます。特にホテルのような観光拠点は、県外・海外からの来訪者に直接アプローチできる存在であり、そこで提供される日本酒が高いストーリー性を持つことは、酒蔵にとって強力な発信の窓口になります。

また、ホテル側にとっても、酒蔵の技術や発酵文化への深い理解は、料理との調和を追求する上で欠かせない視点です。双方にとって学びのある対等な協働こそが、このシリーズの価値を支えているといえます。

「志摩 2026」が目指す味わい

今年の「志摩」は、志摩観光ホテルが誇る海の幸との相性を徹底的に追求し、穏やかな香りとやわらかい旨味、そして品の良い酸のバランスを重視した仕上がりになるといいます。華美な香りに頼らず、食材の持つ滋味を引き立てる構成は、ホテルの料理哲学と密接に結びついています。

酒米は三重県産にこだわり、適度に芯のある味わいを生む精米歩合を採用。仕込み水には地元の伏流水を用い、三重の風土をそのままボトルに閉じ込める設計がなされています。まさに『ホテルが理想とする食中酒像』を具現化した一本といえるでしょう。

酒造業界への波及とこれからの可能性

現在、多くの観光地でご当地ラベルの商品が増えていますが、それらの多くは既存酒のデザインを変えた限定品に過ぎません。一方、志摩観光ホテルのように原料・醸造・味わいまで共同で設計する取り組みは、酒蔵と地域事業者が対等にブランドを築いていくモデルとして注目されています。

この動きが広がれば、地域ごとに『酒と土地の物語』が明確になり、観光産業と酒造業が連動した新しい価値創造につながります。酒蔵にとっても、小ロットでの実験的な醸造や新たな味づくりにチャレンジする余地が広がり、地域全体の技術発展を促すきっかけにもなります。

ホテル文化と日本酒文化の融合が、単なる商品開発ではなく、地域ブランドの未来をつくる取り組みへと進化しつつあることを、この「志摩 2026」は象徴しています。数量限定での発売は、希少性とともにその思想の深さを感じさせるもので、今年も注目を集めることになりそうです。

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Patagoniaと仁井田本家が挑む 「未来の日本酒」 — 日本初の「リジェネラティブ・オーガニック認証」取得酒を発売

アウトドアブランド・Patagonia(パタゴニア)が、福島県郡山市の酒造・仁井田本家とタッグを組み、12月11日より日本で初めてとなる「リジェネラティブ・オーガニック認証(RO認証)」を取得した日本酒「やまもり 2025」を発売します。

この取り組みは、目新しい新商品の発売というだけでなく、農業・醸造・流通・消費という「食のサイクル」の中で、環境・社会・経済を統合的に変えていこうという意図が込められています。

認証の背景と意義

「リジェネラティブ・オーガニック認証」とは、従来の有機農業からさらに一歩進み、 ①健全な土壌づくり ②動植物の福祉 ③社会的公平性 の3つの柱を掲げる農法・認証枠組みです。この認証は世界46カ国で約340ブランドが取得するに至っており、2025年11月時点では米の水田を対象としたガイドラインも制定。「やまもり 2025」は、日本酒として国内初のRO認証取得製品となりました。

この「やまもり 2025」を醸造した自然酒造りで有名な仁井田本家では、自社田で栽培した酒米「雄町」を100%使用し、農薬・化学肥料を使わない水田稲作を実践。また、自社山のスギで作った木桶仕込みという伝統技法も併用。こうした「生態系を守りつつ、地域資源を活用した酒造り」が、RO認証取得の鍵となったのです。

RO認証取得でどうなる

このプロジェクトが持つ意味合いは多岐にわたりますが、下記のような影響が考えられます。

環境インパクトの拡大

水田やその周辺の生態系は、単に米を作る場というだけでなく、野鳥・昆虫・魚介類など多くの生物を育む場です。RO農法を水田に適用することで、そのような生態系の回復・維持につながる可能性があります。また、土壌が健全になることで炭素を貯留し、温室効果ガスの削減にも寄与するとされます。RO認証そのものが「食を通じて気候変動・自然危機と向き合う手段」として位置付けられています。

地域・伝統産業との融合

仁井田本家のような300年以上の歴史を持つ酒造が、最新の持続可能性を取り入れた酒造りに挑む姿勢は、地域産業の新たな方向性を示すものです。老舗であっても環境・社会視点を取り入れることで、伝統×革新の融合モデルを提示していると言えます。

消費者・ブランドの責任意識の高まり

Patagoniaはもともとアパレル・アウトドア分野で環境・社会的責任を重視してきたブランドです。その延長線上で「酒」に環境的ストーリーを持ち込んだ点が注目されます。消費者も「何を・どうやって・誰が作ったか」を問う時代にあり、こうした背景を持つ日本酒への関心は高まる可能性があります。

農業・酒造産業への波及効果

今回のRO認証取得がモデルケースとなることで、他の酒蔵・農家にも「水田や酒米栽培において持続可能な手法を取り入れる」という動きが加速する可能性があります。また、流通・小売・消費のサプライチェーン全体で、より高い環境・社会基準を求める潮流が強まるでしょう。

もちろん、RO農法に対する疑問が存在したり、認証取得にはコストや手間がかかるなど、この種の取り組みは慎重に見ておくべき点もあります。ただ、「やまもり 2025」の発売は、 環境・社会・地域の循環を前提とした食の未来像 を提示するものです。Patagoniaと仁井田本家の協働は、酒造りを通じて「土・人・生き物・地域」がつながる物語を紡ぎ出しています。これがうまく実を結べば、日本酒業界だけでなく、農業・食品産業・消費文化全体に新しい基準やムーブメントを生む契機となるかもしれません。

今後は、実際の味わいや消費者の反応、他業界・他地域での波及効果などにも注目したいところです。

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季節限定「2026年干支ボトル 伯楽星 純米大吟醸 金箔酒」が美しい──金箔が文化デザインへと昇華する瞬間

新澤醸造店の公式インスタグラムに、季節限定商品「2026年干支ボトル“午” 伯楽星 純米大吟醸 金箔酒」が投稿され、注目を集めています。干支デザインの特別ラベルに加え、瓶内で舞う金箔が、新春らしい祝祭感を演出しています。

しかし、この金箔という要素は、味にはほとんど影響を与えません。にもかかわらず、視覚体験として強い存在感を持ち、さらに文化的な意味までも帯びる点にこそ、日本酒デザインの奥深さがあります。

味に関与しない「混ぜ物」だからこそ問われる存在理由

金箔は融点が高く、香味に干渉しないため、酒質の繊細さを崩さない一方で、「味に関係ないものを加える」ことへの抵抗感を生むことがあります。金箔はまた、ときに「派手さ」「いやらしさ」といった俗っぽい印象を与えてしまうのも事実です。

しかし、この味に関与しない異物性こそ、文化的解釈へと転換する余地を生み出します。金箔はそもそも味のために存在しているのではなく、酒を飲む行為に別の価値軸――視覚・象徴・儀礼性――を持ち込む素材なのです。

「金箔がいやらしく見える時」と「美しく見える時」の境界

金箔が俗悪に映るのは、文脈や節度が欠けた場面です。贈り物としての意味、祝いの場が持つ秩序、季節や時間の背景が整わないまま金箔だけが目立つと、表層的で自己顕示的な印象が強まります。

しかし、干支ボトルのように季節性・祝祭性・文化的物語が備わると、その印象は反転します。金箔は単なる飾りではなく、「時の節目を可視化するためのデザイン」として機能し始めるのです。

そして伯楽星は、清冽で雑味がない酒質に金箔を組み合わせ、過剰な華美に走ることなく、静かなきらめきを生み出しています。金箔は主役ではなく、むしろ『光の演出装置』として、酒の透明感を引き立てる立場に回っています。引き算の美学に、控えめな足し算が加わることで、全体が上品な祝祭性を纏います。

金箔酒が持つ儀礼性と文化的記憶

日本文化における金は、吉兆・繁栄・清浄の象徴でした。金箔酒が贈答や新年の席で喜ばれるのは、こうした歴史的背景が無意識に共有されているためです。干支ボトルの金箔酒は、単なるトレンド商品ではなく、日本人が長く育んできた『節目を祝う文化』を現代に再提示する存在でもあります。

「混ぜ物」でありながら、体験価値を増幅し、文化を語る装置へと飛躍する――金箔酒はその稀有な存在です。

伯楽星の2026年干支ボトルは、金箔がもつ俗っぽさを抑え、むしろ文化的深みへと引き上げるデザインの好例と言えるでしょう。味に関わらない素材が、時間・儀礼・美意識と共鳴し、一杯の日本酒を『体験の場』へと変える。その魅力が、この季節限定品には詰まっています。

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伝統は力となるか? 「伝統的酒造り」無形文化遺産登録から1年

2024年12月5日、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから一年が経過しました。これは、単に日本酒だけでなく、焼酎や泡盛を含む多岐にわたる日本の伝統的な醸造技術、それを支える人々の知恵、そして季節ごとの祭事や地域文化との結びつきが世界的に認められたことを意味します。

高まる国内外の認知度と期待

この一年で最も大きな変化は、国内および海外における認知度の劇的な向上です。メディアでの露出が増えたことはもちろん、特に欧米やアジアの富裕層・文化層の間で、単なるアルコール飲料としてではなく、「日本の歴史と風土が生んだ文化遺産」としての評価が定着し始めました。これにより、日本産酒類の輸出市場では、プレミアムライン、つまり高価格帯の商品の需要が高まる傾向が見られています。

一方で、現場の酒蔵には、労働環境の改善や後継者不足という依然として深刻な課題が残されています。無形文化遺産としての価値を将来にわたって維持するためには、これらの「技術の担い手」を確保・育成することが不可欠です。この一年間、各地の酒造組合や自治体は、蔵人の募集や研修制度の充実、さらには冬場に限られていた酒造りを四季醸造へ移行させるための技術導入など、働き方改革と技術継承の両輪での取り組みを加速させています。

「GI」との相乗効果:地域ブランド力の強化

「伝統的酒造り」の価値を具体的に市場に伝える上で、地理的表示(GI:Geographical Indication)制度の存在は欠かせません。GI制度は、特定の産地ならではの特性を持つ産品を保護し、その品質と評判を保証するものです。

ユネスコ無形文化遺産登録は、日本の酒造り全体に「文化的な権威」と「伝統というストーリー」を与えました。これに対し、GIは「具体的な品質基準」と「産地ごとの明確なアイデンティティ」を付与します。

例えば、「GI日本酒」や「GI山形」など、すでに登録されているGI表示が付いた日本酒は、無形文化遺産に裏打ちされた「伝統的技術で造られている」という大前提の上に、「この地域の特定の原料と風土が生み出した特徴を持つ」という二重のブランド価値を持つことになります。

この相乗効果により、特に地方の小規模ながらも個性的な酒蔵が、その地域のテロワール(風土)を表現した商品を、高付加価値なものとして国内外に訴求しやすくなりました。今後、GI登録を目指す地域も増加すると予想され、地域ごとの多様な酒造りの保護と発展に寄与するでしょう。

今後の課題と展望:持続可能な酒造りへ

登録一年という節目に立ち、日本の酒造業界が目指すのは「持続可能な酒造り」の実現です。

【技術のデジタル化とデータの活用】
伝統的な技術を若手に効率よく伝えるため、熟練蔵人の技術をデジタルデータとして記録し、温度管理などにAIを導入する動きが今後さらに広がることが予想されます。

【環境への配慮】
持続可能性の観点から、環境負荷の低い米作りへの回帰や、再生可能エネルギーの導入、水の利用効率改善など、環境と調和した酒造りへの取り組みが、国内外の消費者にとって重要な選択基準となるでしょう。

無形文化遺産登録は、日本の酒造業界が、過去の技術をただ守るだけでなく、それを現代の課題解決と融合させ、未来に進化させていくための大きな契機となりました。この登録を追い風に、日本酒・焼酎・泡盛が、世界の文化遺産として、より広く、より深く愛される存在となることが期待されます。

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一献一局プロジェクト始動!アルミ缶入り日本酒が織りなす地域活性化の新たな一手

日本将棋連盟、東洋製罐グループ、Agnavi の3者が手を組み、将棋と日本酒による地域活性化プロジェクト「一献一局プロジェクト」を立ち上げました。第1弾として、12月6日・7日に開催される「第3回達人戦立川立飛杯」で、青梅の酒造・小澤酒造の「澤乃井」を一合サイズのアルミ缶に詰めた限定酒が来場者に抽選配布されます。文化イベントと地酒をセットで発信する新しい試みとして注目を集めています。

「詰太郎」と「酒代官」がつくる小ロットの自由

今回の取り組みでユニークなのが、缶の充填方法として採用された2つのサービスです。東洋製罐グループの移動式充填機「詰太郎」は、蔵元へ設備を持ち込み、現地で酒を缶に詰められる画期的な仕組みです。一方、Agnaviの「酒代官」は、酒造から受け取った酒を代わって充填する委託型サービスで、設備投資なしで缶日本酒づくりに挑戦できます。

どちらも名前の軽妙さも相まって、これまでハードルの高かった「缶入り日本酒」を、蔵元が小ロットで試せる環境を整えています。大量生産前提だったアルミ缶市場に小回りのきく選択肢が登場したことは、日本酒業界にとって大きな転換点になりつつあります。

一合缶がつくる新しい消費シーン

手に取りやすく、軽く、イベントや観光と結びつけやすい一合缶は、これまで瓶では取り込めなかった層に日本酒を届ける力を秘めています。若年層やライトユーザーが「まず一杯、気軽に飲んでみる」という入り口になり、地域性の高い地酒がカジュアルに流通する可能性が広がっています。

缶は遮光性に優れ、劣化を防ぎやすいだけでなく、デザインの自由度が高いため、イベント限定、地域限定、コラボラベルといったパッケージで魅せる地酒の展開にも適しています。今回の将棋イベントのように、文化との掛け合わせによる相乗効果も期待できます。

小口生産が次の地酒ブームを生むか

これまで地酒ブームは、希少な銘柄の人気や、酒蔵のストーリー性によって生まれてきました。しかし近年、消費者の嗜好は「体験」や「その場だけの価値」にシフトしています。アルミ缶という新たな容器を使い、イベントや観光を軸にその土地ならではの日本酒を提供できる環境が整ったことで、地酒の楽しみ方がまさにアップデートされつつあります。

小ロットで自由に商品をつくれることは、蔵元にとって新しい挑戦のプラットフォームとなり、地域イベントやコラボ企画と結びつきやすくなります。その積み重ねが、次の地酒ブームの引き金になる可能性は大いにあります。缶入り日本酒が、地酒をより身近な存在へと押し上げ、地域の個性がそのまま楽しめる新しい市場を生み出すかもしれません。

「一献一局プロジェクト」は、将棋と日本酒という日本らしい文化の組み合わせに、アルミ缶という現代的な手法を重ねることで、文化体験としての地酒の可能性を提示しています。伝統と革新が交わるこの取り組みには、地域文化の新しいかたちを切り開く可能性が秘められているのではないでしょうか。

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【特集】燗がもたらす日本酒の科学的変化――温度が広げる味わいの可能性

日本酒の魅力の一つとして、幅広い温度帯で楽しめる点が挙げられます。なかでも「燗」は、古くから日本の食文化に寄り添ってきた飲み方ですが、近年は科学的な分析が進んだことで、その味わいの変化がより明確に説明されるようになってきました。本稿では、燗によって日本酒にどのような科学的変化が起きるのかを掘り下げ、その可能性を探ります。


まず注目されるのは、温度上昇による揮発性成分の変化です。日本酒にはリンゴ酸、コハク酸、乳酸などの有機酸や、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルといった香気成分が含まれています。これらは温度が上がると揮発しやすくなり、香りの立ち方に大きな影響を与えます。特に酢酸イソアミルなどの「吟醸香」と呼ばれるフルーティーな成分は低温で感じやすい一方、燗をつけることでアルコール由来の香りや米のうま味を想起させる成分が前面に出やすくなります。そのため、吟醸酒よりも純米酒や本醸造酒が燗酒と相性がよいとされる理由が、科学的にも裏付けられつつあります。

次に、味わいのバランスの変化が挙げられます。温度が上がると、糖分やアミノ酸の甘味・うま味は感じやすくなり、逆に酸味や苦味は相対的に穏やかに知覚されます。この味覚特性は、温かいスープが甘味やコクを強調するのと同じ原理です。日本酒に含まれるアミノ酸は、うま味に寄与するだけでなく、温度上昇により複雑な味わいを形成するため、燗にすることで「まろやかさ」や「ふくらみ」が出ると評価されます。これらの変化は単なる感覚的なものではなく、温度による味覚細胞の反応の変化が関与しているとされています。

さらに、アルコール自体の感覚変化も重要です。温度が高くなるとアルコール刺激は強く感じそうに思われますが、実際には40〜50度の「上燗」帯では刺激が和らぎ、代わりに香りの湯気立ちが増すことで、全体の印象が柔らかく感じられることが知られています。これは、エタノールの揮発による香り成分との相互作用が変化し、味と香りの一体感が増すためとされています。

また、燗によって日本酒のテクスチャーにも変化が生じます。冷酒ではシャープに感じられた酒質が、燗をつけることで粘度が低下し、口当たりが軽やかになる一方で、うま味が広がる印象が強まります。この口中での広がりは、料理との相性を高める効果もあり、和食を中心に幅広いペアリングが楽しめます。

こうした科学的理解の進展により、最近では酒蔵や飲食店が温度帯ごとの最適な提供方法を研究し、温度管理を行うケースが増えています。専用の燗酒器や温度別テイスティングイベントも広がり、燗酒は「古い飲み方」から「新しい体験価値」へと評価が変わりつつあります。

科学が明らかにする燗の魅力は、単に温めるだけではない繊細な味わいの変化にあります。これからの日本酒文化の中で、燗はよりクリエイティブで多様な楽しみ方を生む要素として注目を集めていきそうです。

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梅乃宿酒造株式会社(奈良県葛城市)、共創型プロジェクト「ワクワク日本酒体験ラボ」を始動

奈良県葛城市に拠点を置く老舗酒蔵、梅乃宿酒造株式会社(以下「梅乃宿酒造」)は、2025年11月23日、オンラインファン・コミュニティ「梅乃宿KURABU」のメンバーとともに、共創企画「ワクワク日本酒体験ラボ」の第1日目を開催しました。

この取り組みは、単なる「お酒を飲む」体験を超えて、蔵元とファンが対話し、造り手と飲み手が「ともに」酒を創るプロセスを共有することで、日本酒を文化体験としてリ・デザインする試みでもあります。

「体験」から「共創」へ—味わいを決める開発会議も

当日は、抽選で選ばれた「梅乃宿KURABU」会員が蔵元を訪問、通常は非公開の仕込み部屋を含む特別蔵見学を行い、蔵人の説明を受けながら酒造りの現場に触れました。その後、「どのような味わいにしたいか」「どんなシーンで飲んでほしいか」といった議論を、利き酒を交えつつ蔵人と参加者が展開。参加者の「花見シーズンに軽やかに飲める華やかですっきりとした味わいにしたい」という声がうけて、今回の共創酒の方向性が決まりました。

開発プロセスのラベルデザイン・ネーミングなどもオンラインコミュニティ内で投票によって決定予定。最終的な完成試飲会とラベル作りを伴う第2日目は2026年3月28日に予定されています。

日本酒を「文化体験の道具」に転換する

この企画が示すのは、いま日本酒が、「ただ飲む酒」から「体験として楽しむ」方向へ変化しているということです。

  • 蔵見学という場で、伝統的な酒造りの機械・温度管理・酵母や米の違いに触れる体験。
  • ファン自身が味わいやラベルを議論し、酒づくりに参加するという能動的な関与。
  • オンラインコミュニティを通じて、離れた場所からでも蔵との接点を持つことができるプラットフォーム。

これらがかみ合うことで、酒そのものだけでなく「造る過程」「場」「人との繋がり」が一体となった文化的な体験価値が生まれています。

また、梅乃宿酒造が掲げる「新しい酒文化を創造する」というパーパスにも合致。130年以上の歴史を持ちながら、ファンとともに『ワクワクする日本酒』を創る姿勢が現れています。

飲み手との壁を壊す蔵元とファンの関係性

従来、酒蔵と飲み手の関係は「造る側/飲む側」という一方通行になりがちでした。しかしこのプロジェクトでは、飲み手が造り手と直接ディスカッションすることで、味の背景にある技術・発酵・原料などへの理解が深まります。こうした関与が、飲む側の意識を変え、酒を「知る・創る・楽しむ」対象に転換しています。

また「夫があまり日本酒が得意でないが…」という声から、より幅広い層に向けて日本酒を開く姿勢も見えます。例えば、軽やかな味わいや華やかさを意識することで、初心者にも訴求する酒づくりが行われている点が注目されます。

このような取り組みは、酒造り体験・蔵見学・ラベルデザイン体験など、観光・体験サービスと融合する動きとしても捉えられます。蔵を訪れることで地域文化に触れ、ファンと蔵人が顔を合わせ、酒を通じたコミュニティが育まれる。こうした体験型の酒文化が今後増えることで、日本酒は「場をつくるキュレーター」としての役割も担うようになっていくでしょう。


梅乃宿酒造のワクワク日本酒体験ラボは、単なる『酒』を超えて『文化体験』へと日本酒を引き上げる新たな試みです。蔵人とファンが共に造るプロセス、オンラインとオフラインをつなぐコミュニティ、味覚だけでなく体験そのものを価値とする視点。これらが融合することで、今後の日本酒は「飲むもの」から「参加・体感するもの」へと進化していく可能性を示しています。日本酒ファンはもちろん、地域文化や体験消費を求める人々にとっても注目に値する動きと言えるでしょう。

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『古酒』ANA国際線ファーストクラスに初採用~2026年、飛躍の年となるか熟成日本酒

長期熟成させた日本酒、いわゆる「古酒」が、新たなステージへと踏み出しました。2025年12月1日から、熟成酒専門ブランド「古昔の美酒(いにしえのびしゅ)」によるブレンド古酒「INISHIE 匠 No.1 -Doux-」が、ANA国際線ファーストクラスで機内提供されることになったのです。日本酒の古酒が同クラスの正式採用となるのは初めてで、国際的な場で古酒が本格的に評価され始めた象徴的な出来事といえます。

採用された古酒は、1990年代から2010年代初頭にかけて醸造された異なる酒蔵の熟成酒をブレンドした一本で、長い時間が生み出す蜜のような甘みや、穏やかな酸、余韻の深さが特徴とされています。新酒にはない「時が造る味わい」を、世界中の富裕層やビジネストラベラーが体験することになる点は、古酒の価値が国際的に広がるきっかけとなりそうです。

ただし、日本酒の古酒は決して新しい存在ではありません。歴史を遡れば、平安時代にはすでに熟成させた酒が珍重され、江戸時代になると「三年物」「五年物」といった長期熟成酒が上層階級に好まれていました。むしろ、現在一般的な「しぼりたて」や「フレッシュさ」を重視する酒文化のほうが近代的であり、古酒はかつての主流のひとつだったともいえます。

ところが、戦後の大量生産や嗜好の画一化、冷蔵技術の発達により、日本酒は「新しいほうが良い」とされる傾向が強まりました。結果として、古酒は一部愛好家の世界に留まり、一般市場では長らくマイナーな位置付けに甘んじてきました。

その状況を変え始めたのが、ここ10年で急速に進んだ多様化の波です。ワインやウイスキーなど、熟成を価値とする酒の人気が世界的に再び高まり、消費者の受容度が高まったこと、さらに日本酒の海外展開が進み、「複雑さ」や「深化」を持つ味わいが求められるようになったことが追い風になりました。古酒を扱う蔵元やブランドも増え、熟成専用倉庫の整備、ブレンド技術の向上など、産業としての基盤も整いつつあります。

今回、ANAファーストクラスに採用されたことは、この流れが一段階進んだことを示す出来事だといえるでしょう。国際線のファーストクラスは、世界中の高級酒が並ぶ舞台であり、各国のエアラインソムリエが厳格に選定を行います。その席に日本の古酒が選ばれたことは、味わいの個性はもちろん、熟成酒としての完成度が世界基準で認められたことを意味します。

さらに、国際線という「発信力の強い場」で提供されることで、興味をもった海外客が日本で古酒を探す、あるいは輸出商社が新たな商材として扱うなど、実需の拡大にもつながる可能性があります。これまで古酒は「日本酒の中の小ジャンル」とされてきましたが、この出来事は市場の位置付けを変える転機になるかもしれません。

2026年、日本酒の古酒はさらに注目が高まると見られます。熟成技術の進化、蔵元による新シリーズの展開、外食産業でのペアリング提案など、古酒が活躍する場は拡大しつつあります。今回のANA採用は、その流れを加速させるひとつの象徴です。

『時を味わう日本酒』 が、来年はいよいよ本格的に飛躍する一年となるかもしれません。

▶ INISHIE 匠 No.1 -Doux-|国際線ファーストクラスに搭乗する初の日本酒古酒

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ドジャース優勝記念「純米大吟醸 八海山」発売~祝いの記念品として新たな価値を拓く日本酒

新潟県の八海山酒造が、ロサンゼルス・ドジャースのワールドシリーズ制覇を祝して「純米大吟醸 八海山」の記念ボトルを12月1日より限定発売します。今回の商品は日本国内向けに展開されますが、これは決して内向きの施策ではありません。むしろ、日本酒が本来持つ『祝いの文化』を国内から丁寧に発信し、その価値を世界へと自然に広げていくための基盤づくりと捉えることができます。

祝いの酒としての日本酒

日本酒は古くから「祝い」と深く結びついてきました。婚礼の三々九度、祭礼の振る舞い、神事の御神酒、新年の御屠蘇など、晴れの席には必ず日本酒が寄り添ってきました。この背景には、「酒=神聖な媒介」という日本的精神があり、日本酒は特別な瞬間を象徴化する飲み物として位置づけられてきたのです。

今回の記念ボトルは、そうした伝統的意味合いを現代に再提示するものといえます。スポーツの勝利という世界的なハレの瞬間を、日本の『祝いの酒』で祝うという構図は、伝統文化を軽やかにアップデートする試みでもあります。

国内向け展開がもつ意図と記念品としての可能性

今回の商品が国内向けであるのは、「記念酒」という文化の原点を国内でしっかり提示したいという意図が読み取れます。日本酒の祝い文化に最も共鳴するのは、日本の生活文化を知る国内の消費者です。まず国内市場で「記念酒としての日本酒」の存在価値を再認識してもらい、その文脈を確立することが、世界展開においても説得力を持つ土台になります。

つまり、内向きではなく文化の整備としての国内展開なのです。このステップによって、日本酒が「祝いの象徴」として持つ文化的ストーリーが、より明確で力強いものになります。

また、今回のドジャース記念ボトルは720mlで展開されますが、今後は記念品としての側面をより拡張するために、容量やボトルデザインの柔軟性を持たせることも期待できます。たとえば、「ディスプレイ向けの少容量ボトル」「コレクション性を高めたシリーズ化」「チームカラーやイベントごとのラベル変更」「ギフトボックスや限定刻印の導入」などは、祝いの場面や贈答文化の多様化に寄り添う手法として有効でしょう。

スポーツ記念品の多くがバリエーションを多層化することで市場を拡大してきたように、日本酒も同じアプローチが可能です。特に、日本酒ボトルは飾って楽しめる工芸性を持つため、記念品としてのポテンシャルが非常に高いジャンルといえます。

祝いの心を世界へ

今回の記念ボトルは国内向けですが、その存在はやがて海外にも波及するでしょう。ドジャースファンやスポーツ文化に親しむ層を通じて、「日本では特別な瞬間に日本酒で祝う」という文化が自然と広がる可能性があります。

海外での日本酒人気が高まりつつある中、『祝いを象徴する特別な酒』という文化的価値を伝えられる点は大きな強みです。今回の取り組みは、そうした文化価値を国内から丁寧に築き上げ、将来の国際的展開へとつなげる第一歩となるでしょう。

八海山のドジャース優勝記念ボトルは、日本酒が持つ本質的価値『祝い』『節目』『喜びの共有』を改めて浮かび上がらせる取り組みです。そしてその価値は、記念品という形を得ることでさらに広い層に届く可能性があります。容量やデザインの柔軟化を含め、今後の展開次第では、日本酒が「世界中の祝いの場に並ぶ記念の酒」として存在感を高める未来も想像できます。

今回の限定発売は、その未来に向けた小さくも意味深い一歩といえるでしょう。

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