雪国から生まれる循環の酒──津南醸造が描くサステナブルな日本酒の未来

新潟県津南町に蔵を構える津南醸造は、2025年10月23日から25日にかけて開催されたフードテックカンファレンス「SKS JAPAN 2025」の街中展示企画「食のみらい横丁」に出展しました。同蔵が紹介したのは、純米大吟醸「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」です。雪国のテロワールを象徴する一本として注目を集めましたが、今回の展示で特に焦点となったのは、その味わいだけでなく「サステナビリティ(持続可能性)」というテーマでした。

雪国の気候を生かす「自然冷蔵庫」

津南町は日本有数の豪雪地帯として知られています。冬には積雪が3メートルを超えることもあり、その雪は厳しい自然環境であると同時に、津南醸造にとっては貴重な資源でもあります。蔵では雪室を利用した貯蔵や温度管理を行っており、電力使用量を大幅に抑えています。つまり、雪の冷気がゆるやかに温度を安定させることで、機械による制御を最小限にし、エネルギーコストを削減しながら酒質の安定を実現しているのです。

この「雪の冷蔵庫」は、自然エネルギーを活かした地域ならではの持続可能な仕組みといえます。雪を敵ではなく味方にする発想が、雪国テロワールの根幹にあります。

米・水・人がつなぐ地域循環

「郷(GO)」シリーズの大きな特徴は、原料米に魚沼産コシヒカリを使用している点です。一般的には食用米として知られるコシヒカリですが、津南醸造はその香味の豊かさに注目し、酒造好適米ではなく地元農家と連携して栽培した食用米を用いています。これにより、農家の販路拡大につながり、地域経済の循環を促しています。

また、仕込み水には信濃川源流域の伏流水を使用しています。この清冽な水は雪解けとともに山々から流れ込み、町の水田を潤します。その水が再び酒となって人々の手に戻るという循環こそ、津南醸造が掲げる「雪国サステナビリティ」の象徴です。

フードテックと伝統の融合

今回のSKS JAPANでは、「未来の食」をテーマにテクノロジーと環境への配慮を取り入れた食品が多く出展されました。その中で津南醸造は、伝統的な日本酒という枠組みを超え、自然環境との共生を軸に据えた「地域循環型のフードシステム」としての酒造りを提示しました。

蔵では再生可能エネルギーの導入や廃棄物削減の取り組みも進めています。酒粕は堆肥化され、再び米作りへと還元されます。さらに、瓶や包装資材にもリサイクル素材を積極的に活用し、輸送過程でも二酸化炭素の排出を抑える努力を続けています。

雪国から世界へ──持続可能な味わい

津南醸造の挑戦は、単に環境に優しい酒造りというだけではありません。地域の自然と人の営みを一体化し、未来に継承できる「酒文化の生態系」をつくることを目指しています。

雪国が抱える厳しい気候を逆に資源として捉え、地域全体で支え合う循環のモデルは、世界のサステナブルフードの潮流にも通じます。「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」は、雪国の恵みを凝縮した一本であり、環境と共存する新しい日本酒の在り方を示す『未来の郷土酒』といえるでしょう。

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