「宵火」、久留米焼きとりに捧ぐ至福の一献

福岡県久留米市に、食通たちの熱い注目を集める新たな日本酒が誕生しました。その名も「宵火(Yoibi)」。久留米が誇るB級グルメの王者、久留米焼きとりとの最高のペアリングを目指して開発されたこの酒は、早くも地元の飲食店関係者や愛飲家の間で話題を呼んでいます。

久留米焼きとり、その奥深き世界と「100年フード」認定

久留米市は、実は日本有数の焼きとり文化を持つ街です。単に鶏肉を串に刺して焼くだけでなく、豚、牛、魚介、野菜など、バラエティ豊かな食材が使われ、その種類は数百にも及ぶと言われています。それぞれの素材に合わせた焼き加減や味付け、そして提供されるタレや薬味の工夫など、久留米焼きとりは奥深い食文化を形成しています。豚バラやダルム(豚の直腸)、鳥皮など、独特の名称を持つ串も多く、地元の人々にとっては日常に欠かせないソウルフードとなっています。

そんな久留米焼きとりが、2025年3月に文化庁の「100年フード」に認定されました。これは、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を保護・継承する目的で設けられた制度です。この認定は、久留米焼きとりが単なるB級グルメに留まらず、地域の歴史と文化を色濃く反映した、未来へ継承すべき大切な食文化であることを改めて示す出来事となりました。

「宵火」誕生秘話:100年フード認定が後押しした新たな挑戦

「宵火」を開発したのは、久留米市で酒類販売を手掛けるIZUMIYAです。久留米焼きとりの「100年フード」認定は、この地元の酒販店にとって大きな喜びであり、同時にこの素晴らしい食文化をさらに盛り上げていきたいという強い使命感をもたらしました。久留米焼きとりは、脂の乗ったものからあっさりしたもの、塩味、タレ味と非常に幅広い味わいを持つため、従来の日本酒では相性の良い串が限られるという課題がありました。そこで、より多くの串と調和し、それぞれの美味しさを引き立てるような、久留米焼きとりのための日本酒を造るという強い思いが芽生えました。

この構想のもとIZUMIYAは、久留米で「庭のうぐいす」を醸造する山口酒造場に協力を依頼しました。山口酒造場は、創業以来、地域に根差した酒造りを行い、国内外で高い評価を受ける実力派の蔵元です。両者は、久留米焼きとりの様々な串を食べ比べ、どのような酒質が最適かを徹底的に議論しました。「100年フード」認定後の機運の高まりも背景に、短期間で集中的な試行錯誤を重ね、ついに理想の日本酒「宵火」が完成しました。

「宵火」の酒質:久留米焼きとりのための設計思想

「宵火」は、発泡感のある純米吟醸酒として仕込まれています。麹米には糸島産の山田錦、掛米には久留米産の夢一献を使用。久留米焼きとりの特徴である脂の旨味を受け止めるしっかりとした骨格を持ちながらも、後味は驚くほどすっきりとキレが良いのが特徴です。
その酒質は、口に含んだ瞬間に焼きとりの脂を洗い流し、次の串へと誘うような、“口内リフレッシュ”効果を意識して設計されています。

また、「宵火」は冷やして飲むのはもちろんのこと、ぬる燗でも楽しめるように設計されています。温めることで米の旨味がより一層引き立ち、タレ味の串や濃厚な味わいの串との相性が抜群に良くなります。様々な温度帯で楽しめることで、久留米焼きとりの多様な串に寄り添う懐の深さを実現しています。

久留米の夜を彩る「宵火」

「宵火」という名前には、「夜の帳が降り、焼きとりの煙が立ち上る頃、久留米の街で多くの人々が集い、この酒と共に楽しい時間を過ごしてほしい」という願いが込められているといいます。 昨日7月9日から久留米市内の焼きとり店約50店舗で提供が開始され、「串の味がより際立つ」「何杯でもいける」と、すでに多くのファンを獲得しているようです。

「100年フード」に認定され、その価値が再認識された久留米焼きとりの更なる魅力を引き出し、久留米の夜をより一層熱く彩るであろう日本酒「宵火」。久留米を訪れる際は、ぜひこの特別な一本と共に、奥深い焼きとり文化を存分に堪能してみてください。

▶ IZUMIYA楽天市場店

世界を魅了する日本酒の知恵:津南醸造が拓く、環境と共生する未来への道

古来より日本の風土と文化に深く根ざしてきた日本酒は、近年、その奥深い味わいと多様性で世界中の人々を魅了し続けています。2013年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、その構成要素として日本酒も注目を集めました。さらに、昨年には「伝統的酒造り」そのものがユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、その技術と文化は国際的にも高い評価を受けています。本日も、宮城県の合同酒「DATE SEVEN」が韓国で初の試飲イベントを開催し、前売り券が完売するほどの人気を博したことは、日本酒が国境を越えて愛されている証左と言えるでしょう。

また、日本酒の醸造過程で生まれる成分、特に「麹菌」が生成するコウジ酸や、豊富なアミノ酸などは、古くから美容や健康に良いとされ、化粧品や健康食品の分野でも世界的に注目されてきました。このように、日本酒は単なる嗜好品に留まらず、その伝統的な技術や由来する成分が持つ潜在的な価値が、現代社会の様々な課題解決に貢献する可能性を秘めているのです。

そして今、日本酒業界は、この伝統と革新の精神を環境問題という喫緊の課題へと向けています。新潟県津南町に拠点を置く津南醸造株式会社が始動した「日本酒アップサイクルプロジェクト」は、まさにその先駆的な取り組みであり、日本酒がこれからの環境を考慮した社会に大いに役立っていく可能性を具体的に示しています。

このプロジェクトは、日本酒の製造過程で排出される酒粕や、日本酒そのものが持つ機能性に着目し、これらを未利用資源として捉え、先端技術と融合させることで新たな価値を創造するものです。その主要な取り組みは以下の三点に集約されます。

まず、酒粕由来の半導体材料開発です。半導体は現代社会の基盤を支える重要素材であり、その製造には環境負荷の高いプロセスが伴います。津南醸造は、酒粕に含まれる有機成分が半導体材料としての可能性を秘めていることに着目し、研究開発を進めています。これは、食品廃棄物から高付加価値な先端材料を生み出すという、資源循環型社会の理想的なモデルであり、石油由来の材料に代わるバイオベースの素材として、環境負荷の低減に大きく貢献すると期待されています。

次に、日本酒由来ナノ粒子「SAKESOME」の化粧品・医療分野への応用です。日本酒に含まれるアミノ酸や有機酸などの有用成分を、独自のナノテクノロジーで超微粒子化し、「SAKESOME」と名付けました。この「SAKESOME」は、その微細な構造により、有効成分の皮膚や体内への浸透性を高め、保湿、抗酸化、美白、アンチエイジングといった美容効果が期待されます。さらに、特定の薬剤を効率的に患部に届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアとしての可能性も模索されており、日本酒が持つ伝統的な価値が、最先端のバイオテクノロジーと融合することで、新たな市場を切り開く可能性を示しています。

そして、未来の食糧問題を見据えた革新的な取り組みが、酒製造由来素材を用いた細胞培養食品原料の検討です。酒粕や醸造過程で生成される酵母や微生物が持つ豊富な栄養素と機能性を活用し、代替肉や代替魚といった細胞培養食品の培養培地や、その構成要素として利用する研究を進めています。これは、酒造りの知見を応用することで、持続可能なタンパク源の確保に貢献し、食料問題の解決に寄与するものです。

津南醸造のこの挑戦は、単一企業の取り組みに留まらず、地元の大学や研究機関、異業種企業との連携を通じて、地域資源が最先端技術と結びつき、新たな産業を創出するモデルケースとなりつつあります。日本酒業界は、その伝統的な技術と知恵を現代の環境課題に応用することで、単なる飲料製造業の枠を超え、持続可能な社会の実現に貢献する重要な役割を担う可能性を秘めているのです。

▶ 津南醸造の日本酒

七夕に願いを込めて:「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」が拓く日本酒の新たな地平

七夕の夜空に、織姫と彦星が年に一度の再会を果たすロマンチックな季節。2025年7月7日、この特別な日に、日本酒ファンが待ち望んだ新たな章が幕を開けます。「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」のリリースは、単なる新商品の発表に留まらず、日本酒の未来、そして蔵元の連携が織りなす新たな可能性を、星空のように輝かせる出来事となるでしょう。

「DATE SEVEN」とは、宮城県を代表する七つの実力派蔵元が、それぞれの持ち味を活かしながら一つのテーマに向かって酒を醸す、夢のような共同プロジェクトです。参加蔵元は、仙台伊澤家勝山酒造(勝山)、墨廼江酒造(墨廼江)、寒梅酒造(宮寒梅)、新澤醸造店(伯楽星)、山和酒造店(山和)、萩野酒造(萩の鶴)、川敬商店(黄金澤)。彼らが各々異なる得意分野――原料米、麹、酵母、酒母、醪管理、上槽、貯蔵熟成――を担当し、互いの技術と個性を尊重しながら、唯一無二の日本酒を創造していきます。まさに、七つの星がそれぞれの光を放ちながら、一つの星座を形成するように、彼らは日本酒の新たな境地を切り拓いているのです。

これまでの「DATE SEVEN」シリーズは、その革新的な試みと、参加蔵元それぞれの技術が融合した高品質な酒質で、常に日本酒業界の注目を集めてきました。毎年異なるテーマやアプローチで造られるため、リリースされるごとに新たな発見と感動が提供され、多くの愛好家を魅了し続けています。そして今回の「SEASON2 Episode4」は、その期待をさらに超えるものとなるでしょう。

七夕の夜に込められた「DATE SEVEN」の想い

なぜ、今回のリリースが七夕とこれほどまでに深く結びつくのでしょうか。

第一に、七つの蔵元という「七」の数字は、まさに七夕の「七」と重なります。織姫と彦星が一年間の離れ離れを経て、ようやく出会うように、七つの蔵元がそれぞれの技術と情熱を持ち寄り、一つの酒を完成させる。そのプロセスは、まさに再会と融合の物語であり、七夕の精神と深く共鳴します。

第二に、七夕は願いを込める日です。短冊に願い事を書いて笹の葉に吊るすように、「DATE SEVEN」の蔵元たちも、日本酒のさらなる発展、そして世界への発信という大きな願いを込めて、この酒を世に送り出します。彼らの願いは、この一本の酒を通して、日本酒の魅力をより多くの人々に届け、その文化を未来へと継承していくことにあるのです。

そして第三に、七夕の物語は、努力と試練の先に訪れる喜びを描いています。「DATE SEVEN」の酒造りもまた、各蔵元がそれぞれの持ち場で最高のパフォーマンスを発揮し、時には困難に直面しながらも、それを乗り越えて一つの高みを目指す、まさに不断の努力の結晶です。七夕の夜にこの酒を味わうことは、彼らの情熱と努力に思いを馳せ、その先に生まれた奇跡の味わいを享受することに他なりません。

「SEASON2 Episode4」が拓く新たな地平

今回の「SEASON2 Episode4」がどのようなコンセプトで、どのような味わいを目指しているのかは、まだ多くがベールに包まれています。しかし、「DATE SEVEN」のこれまでの実績を鑑みれば、きっと私たちは驚きと感動に満ちた一本に出会えるはずです。

考えられるのは、例えば、季節の移ろいを表現した繊細な香りや味わいかもしれません。七夕の夜空を思わせるような、星屑のようにきらめく透明感と奥行きのある酒質かもしれません。あるいは、この時期に旬を迎える食材とのペアリングを強く意識した、食中酒としての完成度を追求した一本かもしれません。

技術的な側面では、これまで培ってきた共同醸造のノウハウがさらに洗練され、各蔵元の得意分野がより高次元で融合していることが期待されます。例えば、特定の酵母の特性を最大限に引き出すための麹造りの工夫、あるいは貯蔵熟成における新たなアプローチなど、これまで以上に緻密で革新的な挑戦がなされている可能性もあります。

また、「SEASON2 Episode4」のリリースは、現在活発に議論されている日本酒製造免許の規制緩和にも一石を投じる可能性があります。「DATE SEVEN」のような蔵元間の協力体制は、既存の枠組みの中でいかに新たな価値を生み出すかという点で模範を示しています。同時に、このようなプロジェクトがより自由に、そして柔軟に行われるための制度的支援の重要性も改めて浮き彫りになるでしょう。新規参入を検討する若い世代にとって、このようなコラボレーションは、多様な技術と知見に触れる貴重な機会となり、将来の日本酒業界を活性化させる原動力となるはずです。

七夕の夜、満天の星が輝くように、「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」は、日本酒の新たな可能性を照らし出し、私たちに夢と希望を与えてくれることでしょう。この一本の酒を通して、日本酒の奥深さ、そして蔵元たちの情熱と技術の結晶を、心ゆくまで味わってみてはいかがでしょうか。織姫と彦星の再会を祝う夜に、私たちは「DATE SEVEN」が紡ぐ新たな物語を、グラス片手に静かに、そして熱く見守りたいと思います。

▶ 「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」の詳細

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

世界を席巻する「haccoba」クラフトサケが拓く日本酒の新たな地平

福島県南相馬市小高に拠点を構える革新的な酒蔵「haccoba(ハッコウバ)」が、そのユニークな「クラフトサケ」で世界市場での存在感を急速に高めています。アジア圏での確かな足場を築きつつ、今年2025年春からは欧米への本格的な輸出も開始。その勢いは、直近の海外イベントでの目覚ましい成果によってさらに加速しています。

haccobaは、2021年2月に原発事故で一時人口がゼロになった小高の地で、「酒づくりをもっと自由に」という理念のもと創業しました。伝統的な日本酒の枠にとらわれず、かつての「どぶろく」文化を現代的に再解釈し、副原料の使用や独自の醸造方法を取り入れることで、これまでにない味わいと体験を提供する「クラフトサケ」という新ジャンルを確立しています。2023年7月には隣町の浪江にも醸造所を設け、生産規模を拡大しています。

「クラフトサケ」とは? 日本酒の新たな可能性

haccobaが提唱し、その海外戦略の核となっている「クラフトサケ」とは一体何でしょうか。これは、一般的な日本酒の定義(米、米麹、水のみを原料とし、清酒酵母で発酵させ、ろ過したものであることなど)にとらわれず、果物、ハーブ、スパイスなどの副原料を使用したり、異なる発酵方法や酵母を取り入れたりすることで、多様なアプローチから新しい味わいを追求する、自由な発想の酒を指します。

伝統的な日本酒が守り継いできた規範を尊重しつつも、より広範な食文化やライフスタイルに寄り添い、新たな飲用シーンを創出することを目指しています。例えば、haccobaでは「ホップ酒」「スモークモルトを使ったSake」「梅酒粕を発酵させたSake」など、多様なクラフトサケを世に送り出し、日本酒の持つ可能性を大きく広げています。こうした固定観念にとらわれない柔軟な姿勢が、国内外の多様な消費者の心をつかむ要因となっています。

香港での目覚ましい成功と国際的な評価

そのグローバル展開の成功を象徴する出来事が、2025年6月上旬に香港で開催された日本酒イベント「若手の夜明け 香港 2025(SAKEJUMP HONG KONG 2025)」でした。このイベントは、日本の若手醸造家たちが自慢の酒を披露する国際的な舞台であり、haccobaはここで見事「売上1位」という輝かしい実績を記録しました。香港の日本酒愛好家や現地の飲食店関係者たちが、haccobaの革新的な酒造りとその魅力に強く惹きつけられた証と言えるでしょう。

さらに、haccobaの快進撃はこれに留まりません。権威ある「ICC SAKE AWARD」の予選ラウンドでは、並み居る強豪蔵を抑え、堂々の「1位通過」を果たしました。これは、単なる人気だけでなく、その品質と技術、そして未来への可能性が専門家からも高く評価されていることを示しています。革新的な酒造りでありながらも、日本酒としての高い品質基準を満たしていることが、国際的な舞台で証明された形です。

アジアから欧米へ、世界を見据えるhaccoba

これまでタイ、香港、シンガポール、台湾といったアジア圏で着実に販路を拡大してきたhaccobaは、特に台湾では輸出開始からわずか3ヶ月でミシュラン掲載店を含む20店以上に納入するなど、その品質と独自性が高く評価されてきました。アジア市場での成功が、欧米市場への進出に大きな自信を与えています。

そして、2025年春からは、満を持してアメリカ、オランダ、ドイツといった欧米市場への輸出も本格的にスタートしました。各国のパートナーと連携し、現地の飲食シーンや流通構造に合わせた商品展開を積極的に進めています。アメリカ市場への挑戦においては、2024年に経済産業省の起業家育成・海外派遣プログラム「J-StarX Food Frontiers USA」の第1期にhaccobaが採択され、国からもその事業モデルとグローバルな成長可能性が高く評価されています。

福島という地の歴史と向き合いながら、固定観念にとらわれない自由な発想で酒造りの新たな可能性を追求するhaccoba。「日本酒が、世界各地で土着の“Sake”になる未来を描けたら嬉しい」という彼らの思いは、日本の伝統的な酒造りの概念を超え、グローバルな飲食文化に貢献しようとする強い意志の表れです。香港での成功を足がかりに、haccobaの「クラフトサケ」が世界のSakeシーンに新たな風を巻き起こす日も近いでしょう。

▶ haccoba のサケ

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The Taste of Water ―― 日本酒の深淵に迫るアニメーションドキュメンタリーが始動

【東京、2025年7月4日】 「日本酒は、まるで水だ」。この一見素朴な、しかし奥深い父の言葉をきっかけに、日本酒の真髄を探求する革新的なアニメーションドキュメンタリー『The Taste of Water(ザ・テイスト・オブ・ウォーター)』が世界の注目を集めています。漫画家が自らのルーツと向き合いながら日本酒の魅力を紐解いていく本作は、単なるドキュメンタリーの枠を超え、日本文化の深層を映し出す芸術作品として、その制作発表時から高い期待が寄せられています。

本作は、2025年7月より撮影を開始し、完成は2026年春を予定しているとのことです。本日7月4日の時点で、既に国内外から大きな関心が寄せられているといいます。特に、そのユニークな表現手法と、日本酒というテーマを深く掘り下げる姿勢が、国境を越えて多くの人々の注目を集めているようです。

物語の主人公は、自身のキャリアに悩み、ある日突然、父が残した「日本酒は水のようだ」という言葉の意味を理解しようと旅に出る漫画家です。彼が訪れるのは、雪深い山間の小さな酒蔵、都会の片隅にひっそりと佇む老舗の酒販店、そして日本酒をこよなく愛する人々が集う居酒屋。それぞれの場所で出会う人々との対話を通して、日本酒が単なるアルコール飲料ではないこと、それが日本の風土、歴史、そして人々の暮らしと密接に結びついていることを、彼は肌で感じ取っていきます。

本作で最も注目すべきは、その革新的なアプローチです。日本酒のドキュメンタリーでありながら、全編をアニメーションで表現するという大胆な試みがなされています。これにより、実写では伝えきれない、日本酒が持つ精神性や繊細な味わいの世界観を、より豊かに描き出すことが可能になります。水と米が織りなす神秘的な変化、発酵の過程で生まれる微細な泡立ち、そして熟成によって深まる香りのニュアンスまで、アニメーションならではの色彩と動き、そして音響効果を駆使し、観る者の五感に訴えかけるような表現が期待されます。まるで日本酒の息づかいを肌で感じるかのような、これまでにない没入体験を提供してくれることでしょう。

監督を務めるのは、アメリカから日本に移住してきた異色のクリエイター、大神田リキ氏です。彼女は映画監督、小説家、タレント、女優と多岐にわたる顔を持ち、その多様な経験が本作の制作にも大きく影響していることでしょう。大神田監督は、このドキュメンタリーを通して、日本酒の透明さ、そしてその奥に秘められた無限の可能性を伝えたいと考えているようです。また、日本酒の精神性は物質的な側面だけでは語りきれず、感情や記憶、哲学といった抽象的な要素を表現するにはアニメーションが最も適しているとの考えから、この手法を選んだといいます。

本作は、日本酒愛好家はもちろんのこと、これまで日本酒に馴染みがなかった人々にもその魅力を伝える力を持っています。日本酒造りの背景にある職人たちの情熱や哲学、地域ごとの多様性、そして日本酒を通じて育まれる人々の繋がりなど、多角的な視点から日本酒を深掘りすることで、観る者に新たな発見と感動を与えてくれることでしょう。

『The Taste of Water』は、単に日本酒を紹介する作品ではありません。それは、日本の精神性、自然との共生、そして世代を超えて受け継がれる文化の美しさを描いた、普遍的なテーマを持つ作品です。このアニメーションドキュメンタリーが、世界中で日本酒ブームをさらに加速させ、日本の文化に対する理解を深めるきっかけとなることは間違いないでしょう。2026年春の完成、そしてその後の劇場公開や配信プラットフォームでの展開に、大きな期待が寄せられています。

『The Taste of Water』公式サイト

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飛騨の自然が育む至宝「雪中酒」 出荷開始!~老舗「渡辺酒造」と地域の協働が生む、深雪熟成の神秘~

岐阜県飛騨市河合町で、冬の深い雪の中でじっくりと熟成された日本酒「雪中酒」の出荷が、7月2日に始まりました。この地域ならではの伝統的な貯蔵方法で磨き上げられた秘蔵の酒は、老舗酒蔵である有限会社渡辺酒造の確かな技術と、飛騨市河合町の地域振興を担う株式会社飛騨ゆいの連携によって生み出されています。

「雪中酒」の製造は、まず飛騨市古川町に蔵を構える渡辺酒造が、「蓬莱」の銘柄で知られる彼らの熟練の技をもって、厳冬期に新酒を仕込むことから始まります。この新酒が、飛騨市河合町にある「飛騨かわい やまさち工房」(株式会社飛騨ゆいが運営)が管理する「雪室」へと運ばれ、本格的な熟成期間に入ります。

雪室とは、その名の通り、地域の豊富な積雪を最大限に活用した天然の冷蔵庫です。飛騨市河合町は豪雪地帯であり、この自然の恵みを活かし、雪室内部は年間を通じてほぼ一定の低温(0℃前後)かつ高湿度の状態に保たれます。この環境が、日本酒の熟成に最適な条件を提供します。人工的な冷蔵設備とは異なり、雪の冷気は非常に穏やかに酒を冷やし、ストレスを与えることなく、約4カ月間もの長期間にわたってゆっくりと熟成を進めます。

この雪室熟成によって、酒は驚くべき変化を遂げます。新酒特有の荒々しさが消え、角が取れて口当たりがまろやかになり、雑味が抑えられます。そして、米本来の旨味や香りがより一層引き出され、奥行きのある複雑な味わいへと昇華していくのです。生酒のフレッシュな特性は保ちつつも、香りがふくよかになり、舌触りが絹のようになめらかになるのが、雪中酒ならではの魅力です。

今年の「雪中酒」は、昨年12月から今年1月にかけて仕込んだ純米吟醸酒や純米酒などが中心です。特に今年は、雪室の環境が非常に安定していたため、例年以上にバランスの取れた、非常に良い仕上がりとなったと言います。口に含むと、最初に華やかな香りが広がり、その後、米本来の優しい旨味がじわりと現れます。雪室熟成によるまろやかな口当たりと、清涼感のある後味は、暑い夏にこそ味わっていただきたい逸品です。

「雪中酒」の出荷開始は、単なる季節限定の日本酒販売にとどまらず、地域の気候風土を活かした持続可能な酒造りのモデルとしても注目されています。豪雪という一見ネガティブに捉えられがちな自然条件を、付加価値の高い商品を生み出す資源として活用する発想は、地方創生の好事例と言えるでしょう。また、近年消費者の間で高まる「テロワール(地域性)」や「ストーリー性」を重視するニーズにも合致しており、単なる飲料としてだけでなく、その背景にある文化や地域の魅力を伝える存在としても期待されています。

この飛騨の「雪中酒」は、夏の旬の食材との相性も抜群です。冷やして、刺身や冷奴といった和食はもちろん、夏野菜を使った料理や、さっぱりとした鶏肉・豚肉料理など、幅広い料理に合わせてお楽しみいただけます。冷酒としてワイングラスに注ぐことで、その繊細な香りや味わいをより一層深く堪能できるでしょう。

岐阜県飛騨市の「雪中酒」は、地元の酒販店や百貨店、オンラインショップなどで数量限定で販売されます。毎年高い人気を誇り、早期に品切れとなることも少なくありません。ぜひこの機会に、飛騨の深い雪が育んだ、奇跡の一本を手に入れて、心ゆくまでその贅沢な味わいを体験してみてはいかがでしょうか。日本の伝統的な知恵と自然の恵みが融合した「雪中酒」は、きっと今年の夏の食卓を彩る、忘れられない一本となることでしょう。

炭酸割専用日本酒「サワードッグ」が問いかける、日本酒の新たな地平~高まる“酒ハイ”人気と伝統の融合~

2025年7月1日、秋田県の老舗酒蔵、福乃友酒造から画期的な新商品「福乃友 炭酸割専用純米酒 サワードッグ」が発売されました。このユニークな日本酒は、近年急速に高まる「酒ハイ」人気、すなわち日本酒の炭酸割りという新しい飲用スタイルへの注目と密接に関連しており、伝統的な日本酒の世界に新たな風を吹き込むものとして大きな注目を集めています。

近年、若者を中心にアルコールの楽しみ方が多様化する中で、特に「酒ハイ」と呼ばれる日本酒の炭酸割りが急速に人気を集めています。日本酒を炭酸で割ることで、特有の芳醇な香りはそのままに、より軽やかで飲みやすい口当たりとなり、日本酒に馴染みのなかった層からも支持を得ています。居酒屋のメニューで定番となるだけでなく、自宅で気軽に楽しむスタイルも定着しつつあります。

このような市場の動きをいち早く捉え、福乃友酒造が満を持して投入したのが「サワードッグ」です。同社は長年培ってきた酒造りの技術を活かし、炭酸で割ることを前提とした味わいを追求。一般的に日本酒は、そのままで最高の状態を楽しめるよう醸造されますが、「サワードッグ」は炭酸と混ざり合うことで、その真価を発揮するように設計されています。具体的には、炭酸で割った際に日本酒の旨味や香りが薄れることなく、むしろ爽快感とともに引き立つように、米の旨味をしっかり残しつつも後味はすっきりとキレが良いバランスに調整されています。

福乃友酒造の担当者は、「従来の日本酒のイメージにとらわれず、もっと気軽に、もっと自由に日本酒を楽しんでいただきたいという思いから開発に着手しました。特に、若い世代の方々にも日本酒の魅力に触れていただくきっかけになれば嬉しいです」と語っています。

「サワードッグ」の登場は、単なる新商品にとどまらず、日本酒業界全体に大きな示唆を与えています。これまで「特別な日の酒」や「年配の酒」といった固定観念が強かった日本酒が、炭酸割りという手軽な方法で日常のカジュアルなシーンにも溶け込み始めている現状を明確に示しているからです。

酒ハイ人気の高まりの背景には、消費者の健康志向の高まりも指摘されています。ビールと比較して、日本酒はプリン体含有量が比較的低いとされる場合もあり、健康を意識しつつもアルコールを楽しみたいというニーズに合致している側面もあります。また、日本酒には様々な味わいがあり、炭酸で割ることでさらに多様な表情を見せるため、自分好みの組み合わせを探すという楽しみ方も生まれています。

「サワードッグ」は、日本酒の伝統的な魅力と、現代の消費者のライフスタイルや嗜好を見事に融合させた商品と言えるでしょう。この発売を機に、日本酒の新たな飲用シーンがさらに広がり、これまで日本酒を敬遠していた層にも日本酒の奥深さや楽しさが伝わることを期待せずにはいられません。日本酒の未来を担う新たなムーブメントとして、「サワードッグ」がどのような影響を与えていくのか、今後の展開に注目が集まります。

▶ 福乃友 炭酸割専用純米酒 サワ―ドッグ

伝統製法「生酛造り」回帰の潮流 日本酒の奥深さを再発見する蔵元の挑戦

近年、日本酒業界で静かながらも確実なムーブメントが起きています。「生酛造り(きもとづくり)」という伝統的な醸造法に回帰し、その魅力を再発掘しようとする酒蔵が増えているのです。手作業による手間暇のかかる製法でありながら、なぜ今、多くの蔵元が生酛造りを選ぶのでしょうか。その歴史的背景、復活のきっかけ、そして生酛造りならではの奥深い特徴に迫ります。

日本酒の原点に立ち返る「生酛」の歴史

生酛造りは、日本酒の醸造法の中でも最も伝統的かつ古典的な手法の一つです。江戸時代には主流であったとされ、その歴史は300年以上に及びます。日本酒造りにおいて、酵母が健全に活動できる環境を整える「酒母(しゅぼ)」を育成する工程は極めて重要です。現代の主流である「速醸酛(そくじょうもと)」が、乳酸を添加することで雑菌の繁殖を抑え、効率的に酒母を造るのに対し、生酛造りでは、蔵に住み着く天然の乳酸菌の働きを利用して乳酸を生成させます。

この天然の乳酸菌を待つ間、麹(こうじ)と蒸米、水が混ざった桶の中で、蔵人たちが櫂(かい)と呼ばれる棒を使って、米粒をすり潰しながらよく混ぜ合わせる「山卸し(やまおろし)」という重労働が行われます。この山卸しによって、麹の酵素が米を糖化しやすくなり、酵母が活動しやすい環境が整えられていきます。しかし、明治時代末期に速醸酛が開発されると、手間と時間を要する生酛造りは次第に廃れていきました。速醸酛は、安定した酒質と効率的な生産を可能にし、日本酒の大量生産時代を支える屋台骨となったのです。

「速醸」から「生酛」へ、回帰のきっかけ

生酛造りが再び注目され始めたきっかけは、1980年代後半から90年代にかけての日本酒の「個性化」への意識の高まりにあると言われています。画一的な味わいになりがちな速醸酛に対し、より複雑で深みのある味わいを求める声が消費者からも上がるようになりました。そして、そうした消費者のニーズに応えるべく、一部の志ある蔵元が、消えかかっていた生酛造りの技術を復活させ、その可能性を追求し始めたのです。

また、近年の「テロワール」や「自然」を重視する世界的潮流も、生酛造りへの再評価を後押ししています。人工的な乳酸添加ではなく、蔵に宿る自然の力を最大限に活かす生酛造りの哲学は、環境意識の高まりと共鳴し、より魅力的に映るようになりました。

生酛造りが生み出す唯一無二の味わい

生酛造りの最大の特徴は、その酒が持つ独特の味わいと複雑性にあります。天然の乳酸菌がゆっくりと時間をかけて生成する乳酸は、多種多様な酸を生成し、日本酒に複雑な酸味と奥深さをもたらします。これにより、単調ではない、多層的な味わいが生まれるのです。

また、生酛造りの酒は、酸味と旨味のバランスが非常に良く、熟成させるとさらにその真価を発揮すると言われています。骨格がしっかりしているため、長期熟成にも耐えうる力強さがあり、熟成とともにアミノ酸系の旨味が増し、丸みを帯びた芳醇な味わいへと変化していきます。香りは穏やかながらも深みがあり、燗(かん)にすることでその旨味がより一層引き立つことも、多くの日本酒ファンを惹きつける理由です。

手作業による「山卸し」の重労働は、蔵人の情熱と技術の象徴でもあります。機械化が進む現代において、あえて手間暇を惜しまず、自然の摂理に身を委ねる生酛造りは、単なる酒造りの手法を超え、日本酒の持つ文化的な奥深さ、そして未来への可能性を示していると言えるでしょう。生酛造りの日本酒は、まさに「温故知新」を体現する、日本酒業界の新たな潮流なのです。

▶▶▶ 生酛造りにこだわる酒造

【大七酒造(福島県)】

生酛造りの日本酒を語る上で、まず名前が挙がるのが大七酒造です。創業以来、一貫して生酛造りを取り組んでおり、「純米生酛」など、生酛造りの真髄を味わえる銘柄を多数生み出しています。その力強くも繊細な味わいは、国内外で高く評価されています。

▶ 大七|生酛造り一筋

【新政酒造(秋田県)】

「全量生酛純米造り」を謳っており、秋田県産米のみを使用し、酒母には天然の乳酸菌を活用する伝統製法「生酛」のみを採用しています。ラベル記載義務のない添加物も使用しないなど、非常にこだわり抜いた酒造りを行っています。

▶ 新政|最先端を走るナンバー6

【せんきん(栃木県)】

現代の日本酒造りの原点ともいえる江戸時代の技法を尊重し、それを現代の技術でモダナイズしていくことを「江戸返り」と呼んでいます。その核となるのが「生酛造り」であり、現在ではすべての日本酒を生酛造りで醸造しています。

▶ 仙禽|ドメーヌ化のパイオニア

【寺田本家(千葉県)】

平成12酒造年度から全量生酛造りに転換した酒蔵です。自然の力を最大限に活かした酒造りを目指しており、乳酸菌や酵母の無添加、さらに22BY(平成22酒造年度)からはすべての酒で無農薬米を使用するなど、徹底した自然派の酒造りを実践しています。

▶ 寺田本家|自然のままに時を醸す

【土田酒造(群馬県)】

近年、全量純米山廃造り、そして2019年には全量純米生酛蔵へと転換したことで注目を集めています。江戸時代の製法である生酛造りを現代の設備の中で貫き、菌や微生物の力を信じ、米、水、麹、そして菌のみで酒を造るという哲学を持っています。

【香住鶴(兵庫県)】

全量生酛・山廃蔵として知られています。但馬杜氏の伝統的な酒造りを継承しながら、平成11酒造年度より生酛造りを復活させ、現在ではすべての酒が生酛系(生酛、山廃)で造られています。

【菊正宗酒造(兵庫県)】

灘五郷を代表する大手酒蔵の一つですが、生酛造りにも力を入れています。特に辛口の日本酒を得意としており、生酛造りによるキレの良さとコクを両立させた酒を造っています。一部の上撰本醸造酒も生酛造りに転換するなど、伝統的な製法へのこだわりを見せています。

【出羽桜酒造(山形県)】

吟醸酒ブームの火付け役としても知られる出羽桜酒造も、近年生酛造りの日本酒を手掛けています。「伝統製法シリーズ 生酛仕込み」など、生酛造りの力強さに、出羽桜らしい華やかさを加えたモダンな生酛酒を造っています。

【久保本家酒造(奈良県)】

300年以上の歴史を持つ老舗酒蔵で、生酛造りにこだわった酒造りを行っています。自然豊かな大宇陀の地で、昔ながらの製法を守りながら、個性豊かな「生酛のどぶ」などの日本酒を生み出しています。

【武重本家酒造(長野県)】

「御園竹」「牧水」などの銘柄で知られる武重本家酒造も、生酛造りに力を入れています。特に、生酛造りに欠かせない木製の半切桶や暖気樽を欠かさぬよう、専属の桶職人がいるなど、伝統的な道具や技術を大切にしています。

【大岩酒造本店(鳥取県)】

「岩泉」などの銘柄で知られ、生酛造りによる純米原酒などを製造しています。すっきりとした味わいの中に、米の旨味を引き出した生酛造りの酒を醸しています。

【白牡丹酒造(広島県)】

半世紀の時を越え、2023年に伝統的な生酛造りを復活させた酒蔵です。蓋麹法や木の半切桶、櫂棒による酛摺りなど、徹底して伝統技法にこだわった生酛酒造りに挑戦しています。

【白菊酒造(岡山県)】

小規模ながらも生酛造りに積極的に取り組んでいる酒蔵として知られています。毎年、生酛造りの作業を公開するなど、伝統技術の継承にも力を入れています。

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

世界を「缶」で彩る日本酒の未来:菊水酒造、ニューヨークでの挑戦が示す新たな潮流

2025年6月2日、ニューヨークの中心で、日本の酒蔵が新たな歴史の扉を開きました。アルミ缶入り日本酒のパイオニアとして知られる菊水酒造が、新商品「菊水しぼりたて純米生原酒」の発売を記念し、初の海外ローンチイベントを盛大に開催したのです。このニューヨークでの挑戦は、単なる新商品発表に留まらず、世界市場における日本酒、特に「アルミ缶入り」という形態の可能性を大きく広げるものとして、業界内外から注目されています。

パイオニア菊水酒造の挑戦とアルミ缶の優位性

菊水酒造は、1972年に日本で初めてアルミ缶入りの生原酒「ふなぐち菊水」を世に送り出し、手軽に日本酒を楽しむ文化を切り拓いてきました。以来、同社はアルミ缶入り日本酒のバリエーションを拡充し、現在では13種類もの商品を展開しています。

今回のニューヨークでのイベントで改めて強調されたのは、アルミ缶が持つ日本酒にとっての多大な優位性です。日本酒は紫外線に弱く、また空気に触れることで酸化しやすいため、デリケートな管理が求められます。その点、アルミ缶は「光を通さない遮光性」と「空気に触れさせない密閉性」に優れており、日本酒本来のフレッシュな美味しさを長期にわたって保つことができます。さらに、軽量で持ち運びやすく、リサイクル率も高いという環境面での利点も大きく、ガラス瓶に比べて輸送コストも抑えられ、破損のリスクも低いことから、海外展開において極めて有利な容器と言えるでしょう。

ニューヨークのイベントでは、現地メディア、インフルエンサー、飲食業界関係者など約100名が参加し、「菊水しぼりたて純米生原酒」のテイスティングや、中華、ピザ、バーガー、タコスといった意外なフードペアリングが提供されました。「驚くほど美味しかった」「鮮やかで個性的な味わいが気に入った」「キリッと冷やして炭酸水で割るのがおすすめ」「ハンバーガーやピザとの相性も抜群」といったポジティブな声は、アルミ缶入り日本酒が、伝統的な和食にとどまらず、多様な食文化を持つ海外市場においても受け入れられる可能性を示唆しています。

世界市場における日本酒の課題とアルミ缶が拓く可能性

これまで、日本酒の海外市場開拓においては、その繊細な品質ゆえの輸送・保存の難しさや、高価格帯であること、そして現地での飲用シーンの限定性などが課題とされてきました。特に、ワインやビールのように日常的にカジュアルに消費される習慣がないことが、普及の壁となっていた側面は否めません。

しかし、アルミ缶入り日本酒は、これらの課題に対する有効なソリューションとなります。

  • 品質保持と鮮度: 生原酒のようなデリケートな日本酒も、アルミ缶であれば鮮度を保ったまま世界中の消費者に届けられます。これは、高品質な日本酒体験をどこでも提供できることを意味します。
  • 携帯性と利便性: 軽量でコンパクトなため、アウトドア、ピクニック、フェス、スポーツ観戦など、これまで日本酒がリーチしにくかったカジュアルなシーンでの消費を促進します。ワインやビールのように「どこでも手軽に」楽しめる存在となるでしょう。
  • 新たな飲用機会の創出: ニューヨークでのフードペアリングイベントが示したように、和食に限定されない多様な料理との組み合わせ提案が可能になります。これは、日本酒が持つ「食中酒」としての懐の深さを、より多くの人々に伝える機会となるでしょう。
  • 価格の手軽さ: 大容量の瓶製品に比べ、少量ずつ手軽に購入できるため、初めて日本酒を試す消費者にとっての心理的なハードルを下げる効果も期待できます。

今後の展開と日本酒業界への示唆

菊水酒造のニューヨークでの成功は、他の酒蔵にとっても大きな示唆を与えるでしょう。世界中で日本食ブームが続く中、日本酒への関心は高まっていますが、次のステップとしてはいかに「日常の飲み物」として定着させるかが鍵となります。

今後は、以下のような展開が考えられます。

  • 多様なフレーバーとスタイルの缶製品: 生酒だけでなく、スパークリング日本酒、低アルコール日本酒、特定の料理に特化したペアリング缶など、消費者の多様なニーズに応える製品開発が進むでしょう。
  • デザイン性の向上: 若年層や海外の消費者を意識した、洗練されたデザインの缶が増えることで、ライフスタイルに溶け込む商品としての魅力が高まります。
  • グローバルな流通網の確立: コンビニエンスストアやスーパーマーケット、オンラインストアなど、ワインやビールが流通するチャネルに積極的に展開し、アクセシビリティを向上させます。
  • 異業種とのコラボレーション: 食品メーカーやエンターテインメント業界など、多様な分野とのコラボレーションを通じて、日本酒の飲用シーンを拡大します。

もちろん、アルミ缶入り日本酒が日本酒の全てを置き換えるわけではありません。高級料亭で提供される瓶詰めの日本酒や、酒蔵でしか味わえない限定品など、それぞれの日本酒が持つ価値と役割は今後も重要であり続けるでしょう。しかし、アルミ缶入り日本酒は、その手軽さと品質保持能力によって、これまで日本酒に馴染みのなかった層や、カジュアルなシーンでの消費を促す「日本酒の入り口」として、大きな役割を担うことになるはずです。

菊水酒造のニューヨークでの挑戦は、まさにその第一歩です。日本の伝統文化である日本酒が、「缶」という現代的な容器の力を借りて、世界の日常に溶け込み、新たな飲酒文化を創造する。その未来図が、今、鮮やかに見え始めています。


KISSYO SELECT 溝口店にて開催された来福「夏麗」試飲販売会:夏の到来を告げる特別な日本酒体験

2025年6月28日(土)から29日(日)の二日間にわたり、神奈川県川崎市高津区溝口にある「KISSYO SELECT 溝口店」(マルイファミリー溝口1階)にて、来福酒造による季節限定酒「来福 純米吟醸 夏麗(KAREI)」の試飲販売会が盛大に開催されました。このイベントは、日本酒愛好家にとって、夏の訪れとともに新たな味わいに出会える貴重な機会となりました。

来福酒造は、その確かな技術と革新的な酒造りで知られる蔵元であり、毎年好評を博している「来福 純米吟醸 夏の酒」が2025年より「夏麗(KAREI)」としてリニューアルされたことを記念して、今回の試飲販売会が企画されました。会場となったKISSYO SELECT 溝口店は、日本酒やワインなど厳選されたお酒を取り扱う専門店であり、多くの買い物客が訪れる商業施設内に位置するため、幅広い層の来店が期待されました。

試飲会では、メインとなる季節限定の「来福 純米吟醸 夏麗」が提供されました。「夏麗」は、その名の通り、夏の暑い時期に清涼感と心地よい酸味で喉を潤すことを意図して造られた日本酒で、フレッシュで軽やかな口当たりが特徴です。来場者は、来福酒造の担当者から直接、酒の製法や味わいの特徴について説明を受けながら、実際にその風味を確かめることができました。

さらに、来福酒造の人気銘柄である「オオクワガタラベル」シリーズも試飲対象として用意され、来場者の関心を惹きつけました。ユニークなラベルデザインと共に、その奥深い味わいは多くのファンを魅了しています。加えて、日本酒をベースに仕込まれた梅酒も提供され、日本酒特有のスッキリとした口当たりと梅の爽やかな風味が、夏の暑さにぴったりの飲み物として好評を博しました。日本酒仕込みの梅酒は、普段あまり日本酒を飲まない方にも親しみやすく、新たな日本酒の楽しみ方を提案しました。

来福酒造は、このイベントを通じて「皆さまのご来場を心よりお待ちしております。お気軽にお立ち寄りください」と呼びかけており、来場者が気軽に日本酒の世界に触れ、新たな発見をすることを促しました。試飲販売会は、消費者が直接蔵元と交流し、製品への理解を深める貴重な場であり、今後の来福酒造の製品展開への期待を高めるイベントとなりました。

今回のKISSYO SELECT 溝口店での試飲販売会の成功は、来福酒造のブランド力の向上に貢献しただけでなく、地域における日本酒文化の振興にも寄与したと言えるでしょう。夏酒の本格的なシーズンインを前に、多くの人々が「夏麗」をはじめとする来福酒造の日本酒の魅力を堪能しました。


▶ 来福 純米吟醸 夏麗

▶ 来福 純米吟醸 オオクワガタ