酩酊は旅になる──「日本酩酊計画2025」が描く日本酒の新しい地図

2025年9月、東京の街を舞台に、クラフトサケブランド「稲とアガベ」が主催するユニークなイベント「日本酩酊計画2025」が開催されます。これは、クラフトサケと食の融合を通じて、日本酒文化の新たな魅力を発信する試みであり、1ヶ月間にわたり日替わりで都内の飲食店を巡る“酩酊の旅”とも言える企画です。

イベントでは、チーズスタンドや立ち食い寿司、炉端焼き、クラフトビールバーなど、ジャンルの異なる飲食店が日替わりで登場。それぞれの店が「稲とアガベ」のクラフトサケと自慢の料理を組み合わせた特別メニューを提供し、来場者は一夜限りのペアリング体験を楽しむことができます。例えば、チーズとクラフトサケのマリアージュを味わう夜、サステナブルな食材と酒の関係を考える夜など、毎回異なるテーマが設定されており、参加者は“酔い”を通じて多様な文化に触れることができます。

店舗を変えながら開催する意義──都市を舞台にした文化の回遊

このイベントが1カ月にわたり、日替わりで店舗を変えて開催されることには、いくつかの重要な意味があります。

まず、酒を「場」と結びつけることで、飲む体験そのものに物語性が生まれます。同じクラフトサケでも、寿司屋で味わうのとチーズ専門店で味わうのとでは、感じ方がまったく異なります。酒は単なる液体ではなく、空間・人・食との関係性の中で意味を持つもの──そのことを体感できるのが、この形式の最大の魅力です。

また、都市の中を移動しながら参加することで、来場者は“酩酊の旅人”となります。これは、地方の酒蔵を巡る酒旅の都市版とも言えるもので、東京という多様性に富んだ街の魅力を再発見する機会にもなります。飲食店側にとっても、クラフトサケという新しい酒との出会いを通じて、自店の料理や空間の価値を再定義するきっかけとなるでしょう。

さらに、1カ月という時間軸を持たせることで、酒文化を一過性のイベントではなく、継続的な対話の場として育てることができます。参加者は複数回足を運ぶことで、造り手の哲学や酒の変化に触れ、より深い理解を得ることができます。これは、単なる試飲会では得られない“文化的な酩酊”を生む仕掛けです。

酩酊という肯定──酒と人をつなぐ「場」づくり

「日本酩酊計画2025」が掲げるテーマは、“酩酊=楽しく飲むこと”。酩酊という言葉には、一般的にネガティブな印象が伴いますが、主催者はそれをあえて肯定的に捉え直し、「酒に酔うことで人と人がつながり、文化が交差する場をつくる」ことを目指しています。

クラフトサケを起点にした街づくりを進める「稲とアガベ」の活動は、秋田県男鹿市という地方都市から始まりました。酒造りだけでなく、レストランや宿泊施設、スピリッツ蒸留所などを展開し、地域の魅力を酒とともに発信する取り組みは、地方創生の新たなモデルとしても注目されています。

このような背景を持つ「日本酩酊計画2025」は、都市と地方、日本酒と食、伝統と革新をつなぐ架け橋となるイベントです。来場者は、ただ酒を飲むだけでなく、造り手の想いや地域の物語に触れながら、五感で日本酒文化の奥深さを体験することができます。

酒に酔うことは、時に記憶を曖昧にし、感情を揺らすものですが、その揺らぎの中にこそ、人間らしい豊かさがあるのかもしれません。「日本酩酊計画2025」は、そんな“酔い”の価値を再発見する場として、今後の酒文化に新たな風を吹き込むことでしょう。

▶ 海と – 稲とアガベのWEBメディア(note)

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