日本の農林水産物・食品の輸出戦略において「輸出先の多様化」が改めて最重要課題として浮上しています。これまで日本酒の最大の市場であった中国において、昨年末から通関手続きの遅延が発生するなど、特定国に依存するリスクが顕在化したためです。
政府は2030年までに日本酒の輸出額を、現在の約450億円から760億円に引き上げる高い目標を掲げており、今まさに「どこへ、どのように売るか」の再構築が進められています。
特定国依存からの脱却と新市場の開拓
2026年1月に入り、政府および関係機関は北米、欧州、そして東南アジア市場への注力を鮮明にしています。
特に米国市場では、ニューヨークやロサンゼルスといった大都市圏だけでなく、地方都市の高級ステーキハウスやフレンチレストランでの「ペアリング需要」が拡大しています。また、東南アジアではシンガポールやタイ、ベトナムの富裕層をターゲットにした「プレミアム日本酒」のプロモーションが強化されています。
さらに、地理的表示(GI)の相互保護合意が欧州や英国との間で進んでいることも追い風です。「産地ブランド」としての信頼性を担保することで、安価な模倣品との差別化を図り、高価格帯での取引を維持する戦略が実を結び始めているのです。
日本酒はどう変わるか
これからの数年、日本酒の輸出は単なる「数量の増加」から「質の深化」へと移行していくと考えられます。
【日本酒×ガストロノミーの定着】
和食ブームの枠を超え、現地のローカル料理とのマリアージュが当たり前になります。スパイシーなエスニック料理や濃厚な欧米の肉料理に合う、酸味の強いタイプやスパークリング日本酒など、輸出専用のラインナップが増えるでしょう。
【物流革命と小口配送の進化】
2026年以降は、デジタルプラットフォームを活用した蔵元直送モデルが普及します。大規模な商社を通さずとも、現地のレストランがスマートフォンのアプリ一つで地方の小さな蔵から直接仕入れができる仕組みです。これにより、これまでは輸出が困難だった「生酒」や「季節限定酒」が、搾りたての状態で世界の食卓に並ぶようになります。
【持続可能性とストーリー性】
世界的なトレンドであるSDGsへの対応も欠かせません。オーガニック栽培の米を使用した酒や、カーボンニュートラルな製法、さらには地域の文化遺産としてのストーリーを持つ銘柄が、知的関心の高い世界の消費者から選ばれる基準となります。
日本酒を「世界のSAKE」へと
日本酒は今、「日本のお酒」から「世界のSAKE」へと進化する過渡期にあります。輸出先の多様化は、単なるリスク分散ではありません。それは、世界各地の多様な食文化や価値観と出会い、日本酒自体の多様性を広げていくプロセスでもあります。
2026年、日本各地の酒蔵で醸された新酒が、これまでにない新しいルートで世界の街角へ届き始めています。私たちの伝統文化が、新しい「共通言語」として世界を彩る日はすぐそこまで来ていると言えるでしょう。

