日本酒文化を世界へ!国分グループ本社が仕掛ける「高付加価値な酒蔵体験」でインバウンド誘致を強化

国内の人口減少に伴い、日本酒の国内消費量が減少傾向にある中、その魅力を世界に発信する動きが活発化しています。特に、増加の一途を辿る訪日外国人観光客、とりわけ富裕層をターゲットに、彼らが求める「唯一無二の体験」を提供することで、日本酒文化の国際的な認知度向上と地方創生に貢献しようとする新たな取り組みが注目されています。

食品卸大手の国分グループ本社は、この課題に対し、訪日外国人向けグルメプラットフォーム「byFood(バイフード)」を運営する株式会社テーブルクロスと連携し、「高付加価値な日本の酒蔵体験」の提供に向けた協業を開始しました。この画期的なプロジェクトは、2025年6月30日に発表され、日本酒業界に新たな風を吹き込むと期待されています。

なぜ今、「酒蔵体験」が注目されるのか?

この取り組みの背景には、いくつかの重要な要因があります。まず、2025年の訪日外国人観光客数は過去最高を記録する見込みであり、旅行者のニーズは量から質へと変化しています。特に、富裕層は一般的な観光地巡りだけでなく、その土地ならではの文化や歴史に深く触れる「体験型旅行」を強く求めています。

そして、2024年11月に「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことは、日本酒への世界的な関心を一層高めました。これにより、日本の酒蔵を訪れ、その製造工程や歴史、そして造り手の情熱に触れる「酒蔵体験」は、訪日外国人にとって非常に魅力的なコンテンツへと変貌を遂げています。

国分グループ本社は、全国各地の酒蔵との強固なネットワークを持つ一方、テーブルクロスは「byFood」を通じて世界中の日本食ファンにリーチできるという、双方の強みを最大限に活かすことで、この新たな需要に応えようとしています。

プロジェクトの核心:高付加価値な体験創出と戦略的プロモーション

この協業の具体的な取り組みは、多岐にわたります。

  1. 徹底的なニーズ調査の実施 byFoodが持つ約20万人以上のユーザーネットワーク、特に訪日外国人からのアンケート調査を通じて、彼らが酒蔵体験に何を求め、どのような付加価値に魅力を感じるのかを綿密に把握します。これにより、単なる見学ではない、真に求められる体験コンテンツの企画・造成へと繋げます。
  2. 地域に根ざした体験コンテンツの企画・造成 国分グループ本社は、全国各地の酒蔵と連携し、それぞれの地域が持つ独自の歴史、風土、そして文化を深く掘り下げた特別な体験プログラムを開発します。例えば、特定の米を使った酒造り体験、蔵元との特別な食事会、限定酒のテイスティング、あるいは地域の伝統工芸とのコラボレーションなど、参加者がその土地の魅力を五感で感じられるような、付加価値の高い体験を創出します。
  3. 世界に向けた多言語対応プロモーション 開発された高付加価値な体験コンテンツは、byFoodのプラットフォームを通じて積極的にプロモーションされます。特に、登録者数20万人を超えるYouTubeチャンネルでの動画配信や、Instagram「Japan by Food」をはじめとするSNSネットワーク(合計で月間約1,000万人以上)を駆使し、日本酒や日本文化に深い関心を持つ訪日前の外国人旅行者に、ダイレクトかつ効果的に情報を届けます。多言語での情報発信により、言語の壁を越えて日本酒の魅力を伝えます。

国分グループ本社の狙いと未来への展望

このプロジェクトは、国分グループ本社が推進する「国分グループ オープンイノベーションプログラム2024」の一環として採択されたものであり、同社の変革への意欲を示すものです。

国分グループ本社は、この取り組みを通じて、単に日本酒を販売するだけでなく、その背景にある文化やストーリー、そして地域の魅力を総合的に発信することで、日本酒の新たな価値を創造しようとしています。

今後、体験提供地域を順次拡大し、訪日外国人にとっての「日本酒との出会い」をより深く、感動的なものとするツアー体験を整備していく予定です。また、体験に参加した外国人旅行者がSNSで情報を発信したり、レビューを蓄積したりすることで、地域と世界をつなぐ循環型のプロモーションモデルを確立することを目指しています。

この協業は、日本酒文化の持続的な発展と、その国際的な認知度向上に大きく貢献する可能性を秘めています。地方の酒蔵にとっては、新たな収益源の確保と地域経済の活性化に繋がり、訪日外国人にとっては、日本の奥深い文化に触れる貴重な機会となります。国分グループ本社とテーブルクロスが描く未来は、日本酒が単なる飲み物ではなく、世界の共通言語として文化と感動を届ける存在となる日を予感させます。

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七夕に願いを込めて:「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」が拓く日本酒の新たな地平

七夕の夜空に、織姫と彦星が年に一度の再会を果たすロマンチックな季節。2025年7月7日、この特別な日に、日本酒ファンが待ち望んだ新たな章が幕を開けます。「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」のリリースは、単なる新商品の発表に留まらず、日本酒の未来、そして蔵元の連携が織りなす新たな可能性を、星空のように輝かせる出来事となるでしょう。

「DATE SEVEN」とは、宮城県を代表する七つの実力派蔵元が、それぞれの持ち味を活かしながら一つのテーマに向かって酒を醸す、夢のような共同プロジェクトです。参加蔵元は、仙台伊澤家勝山酒造(勝山)、墨廼江酒造(墨廼江)、寒梅酒造(宮寒梅)、新澤醸造店(伯楽星)、山和酒造店(山和)、萩野酒造(萩の鶴)、川敬商店(黄金澤)。彼らが各々異なる得意分野――原料米、麹、酵母、酒母、醪管理、上槽、貯蔵熟成――を担当し、互いの技術と個性を尊重しながら、唯一無二の日本酒を創造していきます。まさに、七つの星がそれぞれの光を放ちながら、一つの星座を形成するように、彼らは日本酒の新たな境地を切り拓いているのです。

これまでの「DATE SEVEN」シリーズは、その革新的な試みと、参加蔵元それぞれの技術が融合した高品質な酒質で、常に日本酒業界の注目を集めてきました。毎年異なるテーマやアプローチで造られるため、リリースされるごとに新たな発見と感動が提供され、多くの愛好家を魅了し続けています。そして今回の「SEASON2 Episode4」は、その期待をさらに超えるものとなるでしょう。

七夕の夜に込められた「DATE SEVEN」の想い

なぜ、今回のリリースが七夕とこれほどまでに深く結びつくのでしょうか。

第一に、七つの蔵元という「七」の数字は、まさに七夕の「七」と重なります。織姫と彦星が一年間の離れ離れを経て、ようやく出会うように、七つの蔵元がそれぞれの技術と情熱を持ち寄り、一つの酒を完成させる。そのプロセスは、まさに再会と融合の物語であり、七夕の精神と深く共鳴します。

第二に、七夕は願いを込める日です。短冊に願い事を書いて笹の葉に吊るすように、「DATE SEVEN」の蔵元たちも、日本酒のさらなる発展、そして世界への発信という大きな願いを込めて、この酒を世に送り出します。彼らの願いは、この一本の酒を通して、日本酒の魅力をより多くの人々に届け、その文化を未来へと継承していくことにあるのです。

そして第三に、七夕の物語は、努力と試練の先に訪れる喜びを描いています。「DATE SEVEN」の酒造りもまた、各蔵元がそれぞれの持ち場で最高のパフォーマンスを発揮し、時には困難に直面しながらも、それを乗り越えて一つの高みを目指す、まさに不断の努力の結晶です。七夕の夜にこの酒を味わうことは、彼らの情熱と努力に思いを馳せ、その先に生まれた奇跡の味わいを享受することに他なりません。

「SEASON2 Episode4」が拓く新たな地平

今回の「SEASON2 Episode4」がどのようなコンセプトで、どのような味わいを目指しているのかは、まだ多くがベールに包まれています。しかし、「DATE SEVEN」のこれまでの実績を鑑みれば、きっと私たちは驚きと感動に満ちた一本に出会えるはずです。

考えられるのは、例えば、季節の移ろいを表現した繊細な香りや味わいかもしれません。七夕の夜空を思わせるような、星屑のようにきらめく透明感と奥行きのある酒質かもしれません。あるいは、この時期に旬を迎える食材とのペアリングを強く意識した、食中酒としての完成度を追求した一本かもしれません。

技術的な側面では、これまで培ってきた共同醸造のノウハウがさらに洗練され、各蔵元の得意分野がより高次元で融合していることが期待されます。例えば、特定の酵母の特性を最大限に引き出すための麹造りの工夫、あるいは貯蔵熟成における新たなアプローチなど、これまで以上に緻密で革新的な挑戦がなされている可能性もあります。

また、「SEASON2 Episode4」のリリースは、現在活発に議論されている日本酒製造免許の規制緩和にも一石を投じる可能性があります。「DATE SEVEN」のような蔵元間の協力体制は、既存の枠組みの中でいかに新たな価値を生み出すかという点で模範を示しています。同時に、このようなプロジェクトがより自由に、そして柔軟に行われるための制度的支援の重要性も改めて浮き彫りになるでしょう。新規参入を検討する若い世代にとって、このようなコラボレーションは、多様な技術と知見に触れる貴重な機会となり、将来の日本酒業界を活性化させる原動力となるはずです。

七夕の夜、満天の星が輝くように、「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」は、日本酒の新たな可能性を照らし出し、私たちに夢と希望を与えてくれることでしょう。この一本の酒を通して、日本酒の奥深さ、そして蔵元たちの情熱と技術の結晶を、心ゆくまで味わってみてはいかがでしょうか。織姫と彦星の再会を祝う夜に、私たちは「DATE SEVEN」が紡ぐ新たな物語を、グラス片手に静かに、そして熱く見守りたいと思います。

▶ 「DATE SEVEN SEASON2 Episode4」の詳細

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世界を席巻する「haccoba」クラフトサケが拓く日本酒の新たな地平

福島県南相馬市小高に拠点を構える革新的な酒蔵「haccoba(ハッコウバ)」が、そのユニークな「クラフトサケ」で世界市場での存在感を急速に高めています。アジア圏での確かな足場を築きつつ、今年2025年春からは欧米への本格的な輸出も開始。その勢いは、直近の海外イベントでの目覚ましい成果によってさらに加速しています。

haccobaは、2021年2月に原発事故で一時人口がゼロになった小高の地で、「酒づくりをもっと自由に」という理念のもと創業しました。伝統的な日本酒の枠にとらわれず、かつての「どぶろく」文化を現代的に再解釈し、副原料の使用や独自の醸造方法を取り入れることで、これまでにない味わいと体験を提供する「クラフトサケ」という新ジャンルを確立しています。2023年7月には隣町の浪江にも醸造所を設け、生産規模を拡大しています。

「クラフトサケ」とは? 日本酒の新たな可能性

haccobaが提唱し、その海外戦略の核となっている「クラフトサケ」とは一体何でしょうか。これは、一般的な日本酒の定義(米、米麹、水のみを原料とし、清酒酵母で発酵させ、ろ過したものであることなど)にとらわれず、果物、ハーブ、スパイスなどの副原料を使用したり、異なる発酵方法や酵母を取り入れたりすることで、多様なアプローチから新しい味わいを追求する、自由な発想の酒を指します。

伝統的な日本酒が守り継いできた規範を尊重しつつも、より広範な食文化やライフスタイルに寄り添い、新たな飲用シーンを創出することを目指しています。例えば、haccobaでは「ホップ酒」「スモークモルトを使ったSake」「梅酒粕を発酵させたSake」など、多様なクラフトサケを世に送り出し、日本酒の持つ可能性を大きく広げています。こうした固定観念にとらわれない柔軟な姿勢が、国内外の多様な消費者の心をつかむ要因となっています。

香港での目覚ましい成功と国際的な評価

そのグローバル展開の成功を象徴する出来事が、2025年6月上旬に香港で開催された日本酒イベント「若手の夜明け 香港 2025(SAKEJUMP HONG KONG 2025)」でした。このイベントは、日本の若手醸造家たちが自慢の酒を披露する国際的な舞台であり、haccobaはここで見事「売上1位」という輝かしい実績を記録しました。香港の日本酒愛好家や現地の飲食店関係者たちが、haccobaの革新的な酒造りとその魅力に強く惹きつけられた証と言えるでしょう。

さらに、haccobaの快進撃はこれに留まりません。権威ある「ICC SAKE AWARD」の予選ラウンドでは、並み居る強豪蔵を抑え、堂々の「1位通過」を果たしました。これは、単なる人気だけでなく、その品質と技術、そして未来への可能性が専門家からも高く評価されていることを示しています。革新的な酒造りでありながらも、日本酒としての高い品質基準を満たしていることが、国際的な舞台で証明された形です。

アジアから欧米へ、世界を見据えるhaccoba

これまでタイ、香港、シンガポール、台湾といったアジア圏で着実に販路を拡大してきたhaccobaは、特に台湾では輸出開始からわずか3ヶ月でミシュラン掲載店を含む20店以上に納入するなど、その品質と独自性が高く評価されてきました。アジア市場での成功が、欧米市場への進出に大きな自信を与えています。

そして、2025年春からは、満を持してアメリカ、オランダ、ドイツといった欧米市場への輸出も本格的にスタートしました。各国のパートナーと連携し、現地の飲食シーンや流通構造に合わせた商品展開を積極的に進めています。アメリカ市場への挑戦においては、2024年に経済産業省の起業家育成・海外派遣プログラム「J-StarX Food Frontiers USA」の第1期にhaccobaが採択され、国からもその事業モデルとグローバルな成長可能性が高く評価されています。

福島という地の歴史と向き合いながら、固定観念にとらわれない自由な発想で酒造りの新たな可能性を追求するhaccoba。「日本酒が、世界各地で土着の“Sake”になる未来を描けたら嬉しい」という彼らの思いは、日本の伝統的な酒造りの概念を超え、グローバルな飲食文化に貢献しようとする強い意志の表れです。香港での成功を足がかりに、haccobaの「クラフトサケ」が世界のSakeシーンに新たな風を巻き起こす日も近いでしょう。

▶ haccoba のサケ

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The Taste of Water ―― 日本酒の深淵に迫るアニメーションドキュメンタリーが始動

【東京、2025年7月4日】 「日本酒は、まるで水だ」。この一見素朴な、しかし奥深い父の言葉をきっかけに、日本酒の真髄を探求する革新的なアニメーションドキュメンタリー『The Taste of Water(ザ・テイスト・オブ・ウォーター)』が世界の注目を集めています。漫画家が自らのルーツと向き合いながら日本酒の魅力を紐解いていく本作は、単なるドキュメンタリーの枠を超え、日本文化の深層を映し出す芸術作品として、その制作発表時から高い期待が寄せられています。

本作は、2025年7月より撮影を開始し、完成は2026年春を予定しているとのことです。本日7月4日の時点で、既に国内外から大きな関心が寄せられているといいます。特に、そのユニークな表現手法と、日本酒というテーマを深く掘り下げる姿勢が、国境を越えて多くの人々の注目を集めているようです。

物語の主人公は、自身のキャリアに悩み、ある日突然、父が残した「日本酒は水のようだ」という言葉の意味を理解しようと旅に出る漫画家です。彼が訪れるのは、雪深い山間の小さな酒蔵、都会の片隅にひっそりと佇む老舗の酒販店、そして日本酒をこよなく愛する人々が集う居酒屋。それぞれの場所で出会う人々との対話を通して、日本酒が単なるアルコール飲料ではないこと、それが日本の風土、歴史、そして人々の暮らしと密接に結びついていることを、彼は肌で感じ取っていきます。

本作で最も注目すべきは、その革新的なアプローチです。日本酒のドキュメンタリーでありながら、全編をアニメーションで表現するという大胆な試みがなされています。これにより、実写では伝えきれない、日本酒が持つ精神性や繊細な味わいの世界観を、より豊かに描き出すことが可能になります。水と米が織りなす神秘的な変化、発酵の過程で生まれる微細な泡立ち、そして熟成によって深まる香りのニュアンスまで、アニメーションならではの色彩と動き、そして音響効果を駆使し、観る者の五感に訴えかけるような表現が期待されます。まるで日本酒の息づかいを肌で感じるかのような、これまでにない没入体験を提供してくれることでしょう。

監督を務めるのは、アメリカから日本に移住してきた異色のクリエイター、大神田リキ氏です。彼女は映画監督、小説家、タレント、女優と多岐にわたる顔を持ち、その多様な経験が本作の制作にも大きく影響していることでしょう。大神田監督は、このドキュメンタリーを通して、日本酒の透明さ、そしてその奥に秘められた無限の可能性を伝えたいと考えているようです。また、日本酒の精神性は物質的な側面だけでは語りきれず、感情や記憶、哲学といった抽象的な要素を表現するにはアニメーションが最も適しているとの考えから、この手法を選んだといいます。

本作は、日本酒愛好家はもちろんのこと、これまで日本酒に馴染みがなかった人々にもその魅力を伝える力を持っています。日本酒造りの背景にある職人たちの情熱や哲学、地域ごとの多様性、そして日本酒を通じて育まれる人々の繋がりなど、多角的な視点から日本酒を深掘りすることで、観る者に新たな発見と感動を与えてくれることでしょう。

『The Taste of Water』は、単に日本酒を紹介する作品ではありません。それは、日本の精神性、自然との共生、そして世代を超えて受け継がれる文化の美しさを描いた、普遍的なテーマを持つ作品です。このアニメーションドキュメンタリーが、世界中で日本酒ブームをさらに加速させ、日本の文化に対する理解を深めるきっかけとなることは間違いないでしょう。2026年春の完成、そしてその後の劇場公開や配信プラットフォームでの展開に、大きな期待が寄せられています。

『The Taste of Water』公式サイト

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飛騨の自然が育む至宝「雪中酒」 出荷開始!~老舗「渡辺酒造」と地域の協働が生む、深雪熟成の神秘~

岐阜県飛騨市河合町で、冬の深い雪の中でじっくりと熟成された日本酒「雪中酒」の出荷が、7月2日に始まりました。この地域ならではの伝統的な貯蔵方法で磨き上げられた秘蔵の酒は、老舗酒蔵である有限会社渡辺酒造の確かな技術と、飛騨市河合町の地域振興を担う株式会社飛騨ゆいの連携によって生み出されています。

「雪中酒」の製造は、まず飛騨市古川町に蔵を構える渡辺酒造が、「蓬莱」の銘柄で知られる彼らの熟練の技をもって、厳冬期に新酒を仕込むことから始まります。この新酒が、飛騨市河合町にある「飛騨かわい やまさち工房」(株式会社飛騨ゆいが運営)が管理する「雪室」へと運ばれ、本格的な熟成期間に入ります。

雪室とは、その名の通り、地域の豊富な積雪を最大限に活用した天然の冷蔵庫です。飛騨市河合町は豪雪地帯であり、この自然の恵みを活かし、雪室内部は年間を通じてほぼ一定の低温(0℃前後)かつ高湿度の状態に保たれます。この環境が、日本酒の熟成に最適な条件を提供します。人工的な冷蔵設備とは異なり、雪の冷気は非常に穏やかに酒を冷やし、ストレスを与えることなく、約4カ月間もの長期間にわたってゆっくりと熟成を進めます。

この雪室熟成によって、酒は驚くべき変化を遂げます。新酒特有の荒々しさが消え、角が取れて口当たりがまろやかになり、雑味が抑えられます。そして、米本来の旨味や香りがより一層引き出され、奥行きのある複雑な味わいへと昇華していくのです。生酒のフレッシュな特性は保ちつつも、香りがふくよかになり、舌触りが絹のようになめらかになるのが、雪中酒ならではの魅力です。

今年の「雪中酒」は、昨年12月から今年1月にかけて仕込んだ純米吟醸酒や純米酒などが中心です。特に今年は、雪室の環境が非常に安定していたため、例年以上にバランスの取れた、非常に良い仕上がりとなったと言います。口に含むと、最初に華やかな香りが広がり、その後、米本来の優しい旨味がじわりと現れます。雪室熟成によるまろやかな口当たりと、清涼感のある後味は、暑い夏にこそ味わっていただきたい逸品です。

「雪中酒」の出荷開始は、単なる季節限定の日本酒販売にとどまらず、地域の気候風土を活かした持続可能な酒造りのモデルとしても注目されています。豪雪という一見ネガティブに捉えられがちな自然条件を、付加価値の高い商品を生み出す資源として活用する発想は、地方創生の好事例と言えるでしょう。また、近年消費者の間で高まる「テロワール(地域性)」や「ストーリー性」を重視するニーズにも合致しており、単なる飲料としてだけでなく、その背景にある文化や地域の魅力を伝える存在としても期待されています。

この飛騨の「雪中酒」は、夏の旬の食材との相性も抜群です。冷やして、刺身や冷奴といった和食はもちろん、夏野菜を使った料理や、さっぱりとした鶏肉・豚肉料理など、幅広い料理に合わせてお楽しみいただけます。冷酒としてワイングラスに注ぐことで、その繊細な香りや味わいをより一層深く堪能できるでしょう。

岐阜県飛騨市の「雪中酒」は、地元の酒販店や百貨店、オンラインショップなどで数量限定で販売されます。毎年高い人気を誇り、早期に品切れとなることも少なくありません。ぜひこの機会に、飛騨の深い雪が育んだ、奇跡の一本を手に入れて、心ゆくまでその贅沢な味わいを体験してみてはいかがでしょうか。日本の伝統的な知恵と自然の恵みが融合した「雪中酒」は、きっと今年の夏の食卓を彩る、忘れられない一本となることでしょう。

炭酸割専用日本酒「サワードッグ」が問いかける、日本酒の新たな地平~高まる“酒ハイ”人気と伝統の融合~

2025年7月1日、秋田県の老舗酒蔵、福乃友酒造から画期的な新商品「福乃友 炭酸割専用純米酒 サワードッグ」が発売されました。このユニークな日本酒は、近年急速に高まる「酒ハイ」人気、すなわち日本酒の炭酸割りという新しい飲用スタイルへの注目と密接に関連しており、伝統的な日本酒の世界に新たな風を吹き込むものとして大きな注目を集めています。

近年、若者を中心にアルコールの楽しみ方が多様化する中で、特に「酒ハイ」と呼ばれる日本酒の炭酸割りが急速に人気を集めています。日本酒を炭酸で割ることで、特有の芳醇な香りはそのままに、より軽やかで飲みやすい口当たりとなり、日本酒に馴染みのなかった層からも支持を得ています。居酒屋のメニューで定番となるだけでなく、自宅で気軽に楽しむスタイルも定着しつつあります。

このような市場の動きをいち早く捉え、福乃友酒造が満を持して投入したのが「サワードッグ」です。同社は長年培ってきた酒造りの技術を活かし、炭酸で割ることを前提とした味わいを追求。一般的に日本酒は、そのままで最高の状態を楽しめるよう醸造されますが、「サワードッグ」は炭酸と混ざり合うことで、その真価を発揮するように設計されています。具体的には、炭酸で割った際に日本酒の旨味や香りが薄れることなく、むしろ爽快感とともに引き立つように、米の旨味をしっかり残しつつも後味はすっきりとキレが良いバランスに調整されています。

福乃友酒造の担当者は、「従来の日本酒のイメージにとらわれず、もっと気軽に、もっと自由に日本酒を楽しんでいただきたいという思いから開発に着手しました。特に、若い世代の方々にも日本酒の魅力に触れていただくきっかけになれば嬉しいです」と語っています。

「サワードッグ」の登場は、単なる新商品にとどまらず、日本酒業界全体に大きな示唆を与えています。これまで「特別な日の酒」や「年配の酒」といった固定観念が強かった日本酒が、炭酸割りという手軽な方法で日常のカジュアルなシーンにも溶け込み始めている現状を明確に示しているからです。

酒ハイ人気の高まりの背景には、消費者の健康志向の高まりも指摘されています。ビールと比較して、日本酒はプリン体含有量が比較的低いとされる場合もあり、健康を意識しつつもアルコールを楽しみたいというニーズに合致している側面もあります。また、日本酒には様々な味わいがあり、炭酸で割ることでさらに多様な表情を見せるため、自分好みの組み合わせを探すという楽しみ方も生まれています。

「サワードッグ」は、日本酒の伝統的な魅力と、現代の消費者のライフスタイルや嗜好を見事に融合させた商品と言えるでしょう。この発売を機に、日本酒の新たな飲用シーンがさらに広がり、これまで日本酒を敬遠していた層にも日本酒の奥深さや楽しさが伝わることを期待せずにはいられません。日本酒の未来を担う新たなムーブメントとして、「サワードッグ」がどのような影響を与えていくのか、今後の展開に注目が集まります。

▶ 福乃友 炭酸割専用純米酒 サワ―ドッグ

伝統製法「生酛造り」回帰の潮流 日本酒の奥深さを再発見する蔵元の挑戦

近年、日本酒業界で静かながらも確実なムーブメントが起きています。「生酛造り(きもとづくり)」という伝統的な醸造法に回帰し、その魅力を再発掘しようとする酒蔵が増えているのです。手作業による手間暇のかかる製法でありながら、なぜ今、多くの蔵元が生酛造りを選ぶのでしょうか。その歴史的背景、復活のきっかけ、そして生酛造りならではの奥深い特徴に迫ります。

日本酒の原点に立ち返る「生酛」の歴史

生酛造りは、日本酒の醸造法の中でも最も伝統的かつ古典的な手法の一つです。江戸時代には主流であったとされ、その歴史は300年以上に及びます。日本酒造りにおいて、酵母が健全に活動できる環境を整える「酒母(しゅぼ)」を育成する工程は極めて重要です。現代の主流である「速醸酛(そくじょうもと)」が、乳酸を添加することで雑菌の繁殖を抑え、効率的に酒母を造るのに対し、生酛造りでは、蔵に住み着く天然の乳酸菌の働きを利用して乳酸を生成させます。

この天然の乳酸菌を待つ間、麹(こうじ)と蒸米、水が混ざった桶の中で、蔵人たちが櫂(かい)と呼ばれる棒を使って、米粒をすり潰しながらよく混ぜ合わせる「山卸し(やまおろし)」という重労働が行われます。この山卸しによって、麹の酵素が米を糖化しやすくなり、酵母が活動しやすい環境が整えられていきます。しかし、明治時代末期に速醸酛が開発されると、手間と時間を要する生酛造りは次第に廃れていきました。速醸酛は、安定した酒質と効率的な生産を可能にし、日本酒の大量生産時代を支える屋台骨となったのです。

「速醸」から「生酛」へ、回帰のきっかけ

生酛造りが再び注目され始めたきっかけは、1980年代後半から90年代にかけての日本酒の「個性化」への意識の高まりにあると言われています。画一的な味わいになりがちな速醸酛に対し、より複雑で深みのある味わいを求める声が消費者からも上がるようになりました。そして、そうした消費者のニーズに応えるべく、一部の志ある蔵元が、消えかかっていた生酛造りの技術を復活させ、その可能性を追求し始めたのです。

また、近年の「テロワール」や「自然」を重視する世界的潮流も、生酛造りへの再評価を後押ししています。人工的な乳酸添加ではなく、蔵に宿る自然の力を最大限に活かす生酛造りの哲学は、環境意識の高まりと共鳴し、より魅力的に映るようになりました。

生酛造りが生み出す唯一無二の味わい

生酛造りの最大の特徴は、その酒が持つ独特の味わいと複雑性にあります。天然の乳酸菌がゆっくりと時間をかけて生成する乳酸は、多種多様な酸を生成し、日本酒に複雑な酸味と奥深さをもたらします。これにより、単調ではない、多層的な味わいが生まれるのです。

また、生酛造りの酒は、酸味と旨味のバランスが非常に良く、熟成させるとさらにその真価を発揮すると言われています。骨格がしっかりしているため、長期熟成にも耐えうる力強さがあり、熟成とともにアミノ酸系の旨味が増し、丸みを帯びた芳醇な味わいへと変化していきます。香りは穏やかながらも深みがあり、燗(かん)にすることでその旨味がより一層引き立つことも、多くの日本酒ファンを惹きつける理由です。

手作業による「山卸し」の重労働は、蔵人の情熱と技術の象徴でもあります。機械化が進む現代において、あえて手間暇を惜しまず、自然の摂理に身を委ねる生酛造りは、単なる酒造りの手法を超え、日本酒の持つ文化的な奥深さ、そして未来への可能性を示していると言えるでしょう。生酛造りの日本酒は、まさに「温故知新」を体現する、日本酒業界の新たな潮流なのです。

▶▶▶ 生酛造りにこだわる酒造

【大七酒造(福島県)】

生酛造りの日本酒を語る上で、まず名前が挙がるのが大七酒造です。創業以来、一貫して生酛造りを取り組んでおり、「純米生酛」など、生酛造りの真髄を味わえる銘柄を多数生み出しています。その力強くも繊細な味わいは、国内外で高く評価されています。

▶ 大七|生酛造り一筋

【新政酒造(秋田県)】

「全量生酛純米造り」を謳っており、秋田県産米のみを使用し、酒母には天然の乳酸菌を活用する伝統製法「生酛」のみを採用しています。ラベル記載義務のない添加物も使用しないなど、非常にこだわり抜いた酒造りを行っています。

▶ 新政|最先端を走るナンバー6

【せんきん(栃木県)】

現代の日本酒造りの原点ともいえる江戸時代の技法を尊重し、それを現代の技術でモダナイズしていくことを「江戸返り」と呼んでいます。その核となるのが「生酛造り」であり、現在ではすべての日本酒を生酛造りで醸造しています。

▶ 仙禽|ドメーヌ化のパイオニア

【寺田本家(千葉県)】

平成12酒造年度から全量生酛造りに転換した酒蔵です。自然の力を最大限に活かした酒造りを目指しており、乳酸菌や酵母の無添加、さらに22BY(平成22酒造年度)からはすべての酒で無農薬米を使用するなど、徹底した自然派の酒造りを実践しています。

▶ 寺田本家|自然のままに時を醸す

【土田酒造(群馬県)】

近年、全量純米山廃造り、そして2019年には全量純米生酛蔵へと転換したことで注目を集めています。江戸時代の製法である生酛造りを現代の設備の中で貫き、菌や微生物の力を信じ、米、水、麹、そして菌のみで酒を造るという哲学を持っています。

【香住鶴(兵庫県)】

全量生酛・山廃蔵として知られています。但馬杜氏の伝統的な酒造りを継承しながら、平成11酒造年度より生酛造りを復活させ、現在ではすべての酒が生酛系(生酛、山廃)で造られています。

【菊正宗酒造(兵庫県)】

灘五郷を代表する大手酒蔵の一つですが、生酛造りにも力を入れています。特に辛口の日本酒を得意としており、生酛造りによるキレの良さとコクを両立させた酒を造っています。一部の上撰本醸造酒も生酛造りに転換するなど、伝統的な製法へのこだわりを見せています。

【出羽桜酒造(山形県)】

吟醸酒ブームの火付け役としても知られる出羽桜酒造も、近年生酛造りの日本酒を手掛けています。「伝統製法シリーズ 生酛仕込み」など、生酛造りの力強さに、出羽桜らしい華やかさを加えたモダンな生酛酒を造っています。

【久保本家酒造(奈良県)】

300年以上の歴史を持つ老舗酒蔵で、生酛造りにこだわった酒造りを行っています。自然豊かな大宇陀の地で、昔ながらの製法を守りながら、個性豊かな「生酛のどぶ」などの日本酒を生み出しています。

【武重本家酒造(長野県)】

「御園竹」「牧水」などの銘柄で知られる武重本家酒造も、生酛造りに力を入れています。特に、生酛造りに欠かせない木製の半切桶や暖気樽を欠かさぬよう、専属の桶職人がいるなど、伝統的な道具や技術を大切にしています。

【大岩酒造本店(鳥取県)】

「岩泉」などの銘柄で知られ、生酛造りによる純米原酒などを製造しています。すっきりとした味わいの中に、米の旨味を引き出した生酛造りの酒を醸しています。

【白牡丹酒造(広島県)】

半世紀の時を越え、2023年に伝統的な生酛造りを復活させた酒蔵です。蓋麹法や木の半切桶、櫂棒による酛摺りなど、徹底して伝統技法にこだわった生酛酒造りに挑戦しています。

【白菊酒造(岡山県)】

小規模ながらも生酛造りに積極的に取り組んでいる酒蔵として知られています。毎年、生酛造りの作業を公開するなど、伝統技術の継承にも力を入れています。

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