【緊急発売】ミスから生まれた日本酒――飯沼本家『甲子 酒々井の諸事情』が示した誠実な酒造りの姿

千葉県酒々井町の老舗酒蔵・飯沼本家が、2025年12月中旬に「今季限り」の特別酒『甲子 酒々井の諸事情』を発売すると発表しました。22年ぶりに発生した醸造ミスをきっかけに、本来であれば廃棄されてもおかしくなかったもろみを、蔵人たちの試行錯誤によって商品化に導いた事情ありの一本です。

ミスの発端は、同蔵で最も売れる人気商品「酒々井の夜明け」用のタンクに、隣で仕込んでいた普通酒用の「四段用蒸米」と「醸造アルコール」が誤投入されたことでした。結果、本来は純米大吟醸となるはずだった醪が、予定と大きく異なる組成になり、発酵停止や酵母死滅の危険もあったといいます。

廃棄ではなく『挑戦』を選んだ蔵人たち

蔵人たちは諦めることなく、追水による酵母の再活性化や温度管理を続け、発酵を持ち直すことに成功。最終的に白麹を用いた麹四段でクエン酸を補い、甘味と酸味のバランスを調整することで、日本酒として成立する味わいに仕上げました。

酒質は「普通酒(生酒)」となり、アルコール度数15%、日本酒度は-13.1。非常に甘みの強い味わいでありながら「醸造アルコール感が控えめ」という予想外の特徴も見られたとのことです。

このような大きなトラブルから商品化に至った背景には、原料・人手・時間といった資源を無駄にしないという観点だけでなく、「失敗を隠さず伝える」透明性へのこだわりが見て取れます。

ミスを公表して商品化するという選択の意味

一般的に製造ミスは伏せられるものですが、飯沼本家はあえて詳細を公開し、「今回限りの一本」として世に出します。これは、蔵としての誠実さを示すだけでなく、ストーリーを重視する現代の消費者に向けた、新しいコミュニケーションの形でもあります。

さらに、本来の規格から外れたことで生まれた『唯一無二の香味』を楽しんでもらうという提案でもあり、限定商品としての価値も高まっています。

もちろん、「ミスの酒」を商品化することにはリスクも伴います。しかし、丁寧な説明・数量限定・品質管理を徹底することで、不安を払拭しながら新しい価値の提供を実現した点は、他蔵や食品業界にも示唆を与える事例といえるでしょう。

一期一会の味わいが市場へ

『酒々井の諸事情』は、1.8Lが3,000本、720mLが15,000本の限定販売。二度と再現できない『事情のある酒』として、酒好きの間で話題を呼ぶことが予想されます。

飯沼本家がミスを恐れず公開し、挑戦し、価値に変えた今回の取り組みは、透明性の時代にふさわしい新たな酒造りの姿と言えるでしょう。今後、この一本がどのように受け止められるか、注目が集まります。

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「全国燗酒コンテスト2025」、受賞酒の栄冠は誰の手に?

「全国燗酒コンテスト2025」の審査結果がこのほど発表されました。全国から選りすぐりの日本酒が集まり、専門家による厳正な審査を経て、各部門の最高金賞および金賞が決定しました。燗酒にすることで、その真価が問われるこのコンテストは、日本酒ファンだけでなく、燗酒の奥深さを知りたいと願う多くの人々から注目を集めています。

今年のコンテストも、多岐にわたる部門で多数の出品があり、燗酒の多様性が改めて浮き彫りになりました。「お値打ちぬる燗部門」や「お値打ち熱燗部門」で、千円台という手頃な価格帯でありながら、燗にすることで驚くほどの香味の広がりを見せる日本酒が多数あることは世界に誇るべきことですし、「プレミアムぬる燗部門」「プレミアム熱燗部門」「特殊ぬる燗部門」に見られる日本酒の持つ存在感は、新たな飲酒文化の広がりを期待させるものでありました。

そうした中、二年連続で最高金賞を受賞した銘柄が2つありました。「栄冠 白真弓」(有限会社蒲酒造場)と「甲子 純米吟醸 はなやか 匠の香」(株式会社飯沼本家)です。中でも、純米吟醸酒として「プレミアムぬる燗部門」で最高金賞を受賞した「甲子純米吟醸はなやか匠の香」は大注目です。

甲子 純米吟醸 はなやか 匠の香

「純米吟醸」という特定名称酒は、一般的に冷やして飲むことで、その華やかな香りと軽やかな口当たりを楽しむのが王道とされてきました。しかし、この「甲子純米吟醸はなやか匠の香」は、あえて「ぬる燗」という温度帯で飲むことで、その真価を発揮します。審査員は、華やかで品のある香りが、ぬる燗にすることでさらに柔らかく開き、米の旨みが穏やかに、そして豊かに感じられる点を高く評価したと考えられます。

二年連続で最高金賞を受賞したことの意味は、単なる偶然ではありません。これは、飯沼本家が目指す酒造りの哲学が、一貫して「燗酒」という視点からも高いレベルで実現されていることを示しています。毎年異なる米の出来や気候条件がある中で、安定して最高の酒を造り続けることは、蔵元の技術力、そして日本酒に対する深い理解がなければ成し得ません。

「甲子純米吟醸はなやか匠の香」が二年連続で最高金賞に輝いたことは、消費者にとっても大きな指針となります。一般的に「冷やして美味しいお酒」と認識されている純米吟醸酒であっても、燗にすることで、まるで別のお酒のような魅力を引き出すことができるという、日本酒の楽しみ方の多様性を示してくれたのです。

今回のコンテスト結果は、単なる順位発表に留まらず、日本酒の持つ無限の可能性を私たちに示してくれました。特に「甲子純米吟醸はなやか匠の香」の快挙は、燗酒の奥深さと、蔵元の弛まぬ努力が結実した好例と言えるでしょう。受賞された全ての蔵元に、心より拍手を送りたいと思います。

▶ 甲子 純米吟醸 はなやか 匠の香|全国燗酒コンテスト最高金賞に輝く燗上がりする純米吟醸酒

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