獺祭MOONプロジェクト:人類と酒の新たな一歩

2025年、人類は新たな挑戦に踏み出します――それは宇宙での日本酒造りです。山口県岩国市に本社を構える獺祭が、看板銘柄「獺祭」を国際宇宙ステーション(ISS)内の日本実験棟「きぼう」で醸造するという前例のないプロジェクトを発表しました。

この挑戦の背景には、2040年代に月面移住が現実味を帯びる中、酒が人々の暮らしに彩りを添える存在になるという獺祭の想いがあります。日本酒は、原料である米が軽量で輸送に適していることから、月面での製造にも向いているとされております。獺祭では将来的に、月に存在するとされる水と米を活用して、月面での酒造りを目指しています。

今回の宇宙醸造は、その第一歩です。2025年後半に、酒米(山田錦)、麹、酵母、水をISSへ打ち上げ、「きぼう」内で発酵を行う予定です。実験には、月面の重力(地球の約1/6)を再現できる人工重力装置「CBEF-L」を使用します。宇宙飛行士が原材料と仕込み水を混ぜ合わせることで発酵が開始され、その後は自動撹拌とアルコール濃度のモニタリングによって、もろみの完成を目指していきます。

特筆すべきは、日本酒特有の「並行複発酵」という現象――麹による糖化と酵母による発酵が同時に進行するプロセス――を、世界で初めて宇宙空間で確認する点です。これは日本酒の醸造技術の核心であり、宇宙環境での再現は技術的にも文化的にも大きな意味を持つといえるでしょう。

醸造されたもろみ約520gは冷凍状態で地球に持ち帰り、搾って清酒に仕上げる予定です。そのうち100mlをボトル1本に瓶詰めし、「獺祭 MOON – 宇宙醸造」として販売されることが計画されています。驚くべきはその価格――希望小売価格は1億円。その売上は全額、日本の宇宙開発事業に寄付されるということです。

このプロジェクトは、単なる技術実験にとどまらず、日本酒という伝統文化を宇宙時代へと橋渡しする象徴的な試みです。獺祭の挑戦が成功すれば、日本酒は地球を超えて人類の新たな生活空間でも愛される存在になることでしょう。

宇宙で醸す一滴には、未来への夢が詰まっています。

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